第1章 『はじめまして』
「それでは、行きましょうか」
『…え?』
耳を疑った。
なにか了解でもしたのか。
なんの記憶も無いはずなのに、スーツの男性の言うがままその目的地へと連れていかれた。
『えっと…こちらは……』
一体何がどうなってビルの屋上から京都の昔風な家の中へと飛ばされたのか。
隣にいるスーツの男性は涼し気な表情のままで何もわからない。
異次元すぎでしょ。
「こちらへ」
自然と口が開き、呆然としている所に声がかかる。
いけないいけない。
意識を現実に戻し、スーツの男性の後ろについて行った。
案内されたのは大きな扉が目立つ部屋だった。
恐る恐る部屋の中へ入ると机の前に袴を着た女性の姿が。
黒髪ロングをハーフアップにくくっており、身長もスラリとしていて綺麗な方だった。
「初めまして、波崎テルさん」
話し方にも品があるなんて。
女性の中の女性だ…。
そんな私は随分と見とれてしまっていた。
『何が何だか分かりませんが…取り敢えず、よろしくお願いします』