第2章 プロローグ ーとある街ではー
「強さがコントロール出来れば、外部から入ってきた者に誤解されることも減るでしょう」
顎に手をやりながら考えた紅丸は、隣からクスクスと小さく笑う声が聞こえ目を瞬かせる。
「リムル様?」
「いや、ちょっとお前達と出会った時のことを思い出しただけだ」
「……っ」
わざと口の端を上げて言うリムルの言葉を聞いて、紅丸は顔を背けた。
紅丸を始めとする鬼人達は、オーガ(大鬼族)だった頃にリムルと出会った。しかしその出会いは、決して褒められたものではない。
その時、彼等の里はオーク(豚)達の手によって滅ぼされていたのだ。復讐に駆られ、残った者達とジュラの森でリムルが出会った時、仮面を付けていたリムルを仇と誤解して攻撃したことは、まだ記憶に新しい。
リムルは眉間に皺を寄せ、後悔の念を漂わせる紅丸の背中を少し強く叩いた。
「あー、勘違いするなよ。俺は怒ってないからな」
「しかしーー」
「もう過ぎたことだ。気にするな」
「……」
「出会い方はちょっと悪かったかもしれないが、俺はお前達と出会えたことを嬉しく思うぞ。
俺の中の世界も広がったし、オークロード(豚頭帝)の後もここに残ってくれて助かっている。俺一人だったら、ここまで来れなかったかもしれない。ありがとな、紅丸」
「リムル様……」
リムルの強さ然り、その懐の深さや広さが多種多様の者を集め、彼を主と慕う所以なのだろう。紅丸もまたその一人なのだが。
強さを誇示せず自分達の心身を救ってくれた彼に仕えることを改めて誇りに思った。
「人数が多いからクラスに分けて数日跨いた試合にした方が良いかな」
「そうですね。隠密達はそこそこ力はあるでしょうから、ゴブリンライダーやオーク達を先に鍛えた方が良いかと」
「だな。じゃあ、白老に審判を頼むか」
そんなことを話しながら執務殿に着けば、リグルドや紫苑が既にいた。
「リムル様!」
「これはリムル様」
「お、もう来てたのか」
「と仰いますと?」
首を傾げるリグルドと紫苑にリムルは幹部達を集めるよう頼む。ただし、急ぎてはないと念を押して。
そうして集まってもらった幹部達に訓練試合のことを話せば、全員賛成とのことだった。だがーーー
「リムル様! 納得出来ません!」
「そうですわ!」
紫苑や朱菜がプクーっと頬を膨らませて抗議する。リムルは溜息をつきながら、天を仰ぐ。