第2章 中学生編
紫沫SIDE
なんだか右手が暖かい。
こんな感覚いつぶりだろう。
あぁ、幼い頃熱を出すと必ずお母さんが手を握ってくれていたのと似ている。
この温もりはとても安心する。
(お母さん…?)
右手の温もりを感じながらゆっくり瞼を上げると目の前には見なれない天井が広がっていた。
(あれ?私確か"個性"の自主練してて…)
そうだ、キャパオーバーを起こして倒れたのだと意識の定まらない頭で思い出す。
ふと、右手の温もりは誰なのだろうと首を横に動かせば意識を手放す直前に見ていた紅白頭が至近距離で目に入って。
「っ!!!!」
声にならない叫び声を上げ、勢いのまま手を離し起き上がった。
(…え?…えっ!?これどういう状況!?)
何故彼がここにいるのか。
しかも、ベッドに頭だけを突っ伏しているということは寝落ちしてしまっているのか?
そして何故手を握られていたのか。
寝起きの頭をフル回転させて考えても何一つ答えは出て来なかった。
そんな私を他所に、ゆっくりと紅白頭が動き出して。
視点が定まっていないのかこちらを向いて動かない。
私は未だこの状況が理解できずに半身を起こした体勢のまま固まっていると、向こうは寝ぼけているのか。
じっとこちらをみつめたままなんの前触れもなく自然な動作で手が伸びてくると、そっと指先が首元に触れた。
「…体温、こんだけ戻れば大丈夫だろ」
そう言うと、彼は椅子から立ち上がりその場を離れていく。
いきなり彼の指先が触れたことでとうとう思考が停止してしまい呆然としていると、養護教諭がこちらに向かってくるのに気づき、慌てて意識をこちら側へと引き戻した。
「雪水さん体調はどう?」
「あっ…あの…大丈夫、です…」
なんとか出てきた声はあまりにも説得力に欠けるもので、自分でも何が大丈夫なのかわからないまま答えていた。
「体温が元に戻ってるからそのまま帰っても大丈夫とは思うけれど、念の為に轟君、雪水さんのこと家まで送ってあげてもらえるかな?」
「…いいですよ」
もう何が起きているのか理解することを諦め、ただ成り行きに身を任せるしかないと思った矢先。
「それと、倒れちゃった雪水さんをここまで運んでくれたのは轟君なのよ」
と、とんでもない爆弾を投下して、養護教諭はこれから会議があるとかでその場を去って行ったのだった。
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