第3章 原作編《入学〜USJ》
紫沫SIDE
敵が何かをしでかそうとした瞬間、爆豪君と切島君がそいつ目掛けて飛び出した。
私はそれに気付く事が出来ない程余裕がなくて、今にも恐怖で発動してしまいそうな"個性"を必死に抑えていた。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
「危ない危ない…そう…生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだ。どきなさい。二人とも!」
「散らして、嬲り、殺す」
一瞬にして視界が暗くなる。
恐怖が私を飲み込んだのかと思ったその時だった。
誰かに腕を掴まれ、引っ張られて。
気付いた時には抱き締められていた。
手で頭を抑えられている為顔を上げられない。
けれどその腕の中はとても暖かくて、無意識にその人の服をギュッと掴んだ。
(…怖いのが…消えていく…)
暗いものが晴れていくのがわかる。
それは決して恐怖とかではなく、敵の何かだとは気付かなかった。
私は抱きしめられたまま、視界に入ってきたのは白色の服。
もうあの時の恐怖は消えている。
その直後、感じたのはあの心地のいい冷気の寒さだった。
「散らして殺す…か。言っちゃ悪いがあんたらどう見ても「"個性"を持て余した輩」以上には見受けられねぇよ」
頭の上から声がした。
それが誰かなんて聞き間違う筈がない。
「轟君…?」
私のその声に抱き締めていた腕は離れていき、一瞬目が合ったかと思うとすぐ様視線は外れ、敵の方へと歩き出し、一人の敵の前にしゃがみ込んだ。
「このままじゃあんたらじわじわと身体が壊死してくわけなんだが、俺もヒーロー志望。そんな酷ぇ事はなるべく避けたい。あのオールマイトを殺れるっつう根拠…策って何だ?」
目の前で彼と敵が話を始めた。
話といっても、質問に敵が答えているだけなのだけれど。
僅かに聞こえて来たのは広場にいる敵の親玉らしき人がオールマイト殺しを実行する役ということ。
それを聞き終えた彼は立ち上がりこちらに振り向いた。
「あ、ありがとう…」
「俺は広場に向かう。…ここにいろ」
そう言うと、そのまま走り出してしまった。
足手まといにしかならないのはわかっている。
もう足はすくんでいない。
何故だかその背中を追い掛けずにはいられなくて、考えるより先に私はその場を駆け出していた。
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