第2章 中学生編
紫沫SIDE
「…ここは…」
ゆっくりと瞼を開けて目に入ってきたのは見覚えのある天井。
「保健室…?」
てっきり病院で目を覚ますと思っていたのに、そこは予想外の場所だった。
意識は手放したけど、仮死状態にならずに済んだのだろうか?
そんな事を考えていると、視線の端に何かが写り込んだ。
(え…これって…)
そこには見覚えのあるマフラー。
もし、そのマフラーだったとして、それの持ち主を私は1人しか知らない。
「なんで…」
上半身を起こしそのマフラーを手に取る。
懐かしい香りがした。
「雪水さん、起きた?」
やってきたのは前にもお世話になった養護教諭。
「あら、それ忘れていっちゃったのね。帰り際に来て、もう一度だけ温めてくれてたの」
「それって…」
「轟君よ」
その名前を聞い途端に涙が出そうになったけど、必死で堪えた。
やっぱり…思った通りの人だった。
でも、何で助けてくれたの?
使いたくない左を使ってまで。
私から離れる事が答えだったんだよね?
轟君の考えている事がわからないよ…
「なんだか今日は用事があるからってもう帰っちゃったんだけど。雪水さん体調はどう?」
「…大丈夫です」
「今日は一人になっちゃうけど、帰れそう?」
「はい…」
「あ、そのマフラー忘れ物で預かっとくわね?」
「…いえ、お礼も言いたいので…こちらから渡しておきます」
「そう?それなら、お願いするわね」
もう近づく事が出来ないのに、なんでこんな事を言ってしまったんだろう。
私はそのマフラーを持って保健室を出たところで、堪えきれず涙が流れた。
わからないことだらけで、聞きたいことがいっぱいあるのに、何一つ聞くことが出来ない。
離れていくのなら、こんな事しないで。
余計に辛くなるだけなのに。
それでも、轟君の優しさに触れられた事に嬉しさを覚えずにはいられなかった。
(これ以上、好きになんてなりたくないのに…)
まだ涙は止まらないけれど、ここにいるわけにもいかず、涙を拭って歩き出し、持ち主の元へと返せないマフラーを持ったまま家に帰ったのだった。
.