第2章 中学生編
紫沫SIDE
そして放課後。
この日は急いでいつもの待ち合わせ場所へと向かった。
学校にいる間轟君の雰囲気がいつもと違うことに気付いていながら何もできなくて、ずっと気になっていたから。
漸く轟君に手を伸ばすことができると思うと1秒でも早く会いたくて。
けれど、辿り着いたそこには誰もいなかった。
(あれ?早く来すぎたかな?いつもは轟君の方が早いのに…)
急いできたから私が早くきすぎたのかもしれない。
そう思って待ってみるけど、一向に来る気配がなくて。
(どうしたんだろう…連絡もないし…先生に捕まったのかな…)
それから更に10分。漸く轟君らしき人影を見つけると。
「轟君!」
私は待ちきれずに駆け出していて。
「悪ぃ、雪水。待たせたな」
「ううん、何か用事があったの?」
「…ああ」
「そっか。じゃぁ行こ?」
ここでは立ち話になってしまうから、いつもの公園でゆっくり話がしたかった。
「…雪水」
耳に馴染む低音が私の名前を呼ぶ。
これはいつもの合図…?
でも、何でこんなところで?
そう思いながらも振り向くと、優しい手が頬に触れてそっと唇が重なる。
いつもと同じなのにいつもと何かが違う。
そんな違和感が私の心を騒つかせた。
いつもより少し長いキスに息がもたなくて、思わず私から唇を離してしまって。
「っはぁ…酸素不足になる…」
見上げた先にある顔が酷く寂しそうな表情をしていた事に驚いた。
朝に見た雰囲気がなくなっていた事には少し安堵したけど、何で今そんな顔をするのかわからなくて。
「轟君…?」
わからないけど、どうしようもなく不安にかられて轟君に触れようと手を伸ばした時。
「これ以上俺に近づくな」
「…え?」
一瞬にして轟君の目つきが昨日と同じ鋭いモノに変わり。
キスの後に突然の拒絶が理解不能で、伸ばした手が止まる。
もしこの手が触れていれば結果は違っていたかもしれないけど、この時の私にその猶予はなかった。
「もう、ここにはこねぇ。今日が最後だ。
さよならだ………紫沫」
唐突な別れの言葉の後に向けられた背は、一度も振り返る事なくその場を去っていく。
何で下の名前で呼んだの?
何で最後なの?
何でもうここには来ないの?
何一つ理解する事は出来なくて。
暫くの間、その場に立ち尽くす事しか出来なかった。
.