第2章 中学生編
紫沫SIDE
あの後、家に着くまでずっと無言で、帰り際に「また、明日」って言ったら轟君は「ああ…」とだけ言ってそのまま帰って行った。
今日初めて、私たちの暗黙の了解が破られた。
「轟君、大丈夫かな…」
初めてあんなに鋭い目をした轟君を見た。
いつもは、無表情だけど怖いわけじゃなくて、ちょっと口調は悪いけど本当は優しくて、たまに天然なところがあったり、少し恥ずかしいくらい気持ちをストレートに伝えてくれる。
そんな轟君しか知らなかった。
………違う。前にも一度今日ほどじゃないけど、雰囲気が似ている時があった。
確か、お礼にジュースを奢った時だ。
左手の、炎の話をした気がする。
あの時の私は何も知らなくて、自分が助けられた事しか考えてなかった。
言ってたじゃないか、左は使わないって。
それなのに、私は…
「ダメだ、なんで私が混乱してるんだろう…私は部外者じゃないか…」
あの時の轟君の目が、声が、表情が、頭の中にこびりついて離れない。
掴まれた腕が少し赤くなっているのに気が付いた。
確かに少し痛かったけど、こんな跡が残る程強く握っていたとは思わなかった。
私もきっと冷静じゃなかったんだろうな…
「私余計なことしちゃった、かな…」
いや、私が何を言ってたとしてもきっと、2人には届いていない。
だって、エンデヴァーは一度も私と目を合わせていなかった。
「きっと、私は眼中になかったんだろうな」
轟君の背負っているものの重さを肌で感じた気がする。
だから、余計に心配でたまらない。
また1人であの泣きそうな表情をしているのかもしれない。
何も出来ない自分が情けなくて恨めしい。
「明日、学校で会えるよね」
会えたからと言って何ができるわけではないけれど、今の何もわからない状態よりは、手を伸ばせば届く距離に行けることの方が何倍もいい。
私に出来ることがあればなんだってするから。
だから1人で抱え込まないで。
暗いほうへ行こうとしないで。
痛いのを我慢して苦しまないで。
泣かないで。
「あー、まただ。私が泣いてどうする…っ」
辛いのは轟君なのに。
泣きたいのは、苦しいのは、痛いのは、
轟君なのに。
涙が溢れて止まらない。
どうか、せめて夢の中だけでも、轟君の心が安らげますように。
そう願いながら、私は眠りへと落ちていた。
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