第2章 中学生編
紫沫SIDE
「それってなんでもいいのか?」
「え?」
思わず顔を上げてしまった。
「俺のもんが欲しいんだろ?」
「あ、うん…?」
そうなんだけど…言い方の問題なのかな?
ちょっとニュアンスが違う気がするけど。
それを訂正する勇気もなくて私は轟君の次の言葉を待った。
「つっても、あんまあげれるようなもんねぇな…服とかでもいいのか?」
「え、あ、多分?」
ここにきて、自分の欲しいものが何なのか見失った。
確かに服も身につけているものの一つだけれど…私が想像していたのは小物とかで、まさかそんな選択肢があるとは思わなかったのだ。
「男もんだし、雪水にはでけぇと思うけどな」
そういって轟君は箪笥の中から1枚の上着を取り出してきた。
「羽織るもんなら多少でかくても着れるだろ」
それは、黒のシャツジャケットだった。
「あ、ありがとう」
「ああ。こんなんでいいのか?」
「うん!」
轟君の服を貰えた事が予想以上に嬉しくて、思わずその場で袖を通してみた。
やっぱりそれは大きくて、手は殆ど袖の中に隠れてしまっているし、丈も太ももの半分くらいは隠れてしまいそう。
「…なんか、変な感じだな」
「え?」
「いや、なんでもねぇ…」
顔を逸らされてしまった。
やっぱり変だったんだろうかと思ってすぐに脱いだ。
別に着るために欲しかった訳ではないから、部屋に飾ったりすればいいよね。
「轟君、ありがとう。大事にするね!」
「おお」
もらった服を丁寧に畳んで鞄の中に入れたおいた。
もし忘れたりしたら嫌だったから。
少しずつ轟君に貰った物が増えていく事が凄く幸せで堪らなかった。
どれも大切な宝物だ。
こんなに嬉しい誕生日プレゼントは初めてかもしれない。
本当に大事にしよう。
「轟君」
「なんだ?」
「ありがとう」
言葉にしたのは一言。
本当は一言じゃ足りないんだけど、どれだけ言っても足りる気がしなかったから。
その一言に沢山の意味を込めた。
誕生日プレゼントをありがとう
私の想いを受けとめてくれてありがとう
人を好きになる事の尊さを教えてくれてありがとう
宝物が増えていく幸せをありがとう
そして、何より1番強く想ったことは
轟君との出逢いをこんなにも素敵なものにしてくれて
ありがとう
どれか一つでも轟君に伝わりますように。
と心の中で願った。
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