第2章 中学生編
紫沫SIDE
1月11日の放課後、今日は轟君の誕生日だ。
相変わらず公園に来ているのだけど。
なんとか決まって用意したプレゼントを、やっぱりタイミングが掴めなくて未だに渡せていなかった。
「…雪水、またなんかあったのか?」
これはクリスマスと同じパターンだ。
またしても自分からは切り出せなかった事を少し悔やみながらも、折角のチャンスだと思って鞄の中の物に手を掛けて。
「あのね、轟君……誕生日おめでとう!」
「…え?」
手作り感のするラッピングだけど、気持ちだけはしっかりと込めたプレゼントを差し出した。
「これ、誕生日プレゼントなんだけど…」
「誕生日知ってたのか?」
「ううん。幼馴染が教えてくれた」
「そいつが何で俺の誕生日知ってんだ…?」
「さ、さぁ、何でだろう?」
あ、これはちょっとまずいかもしれない。
話題を変えなきゃ。
「あの、これ、お口に合うかわからないんだけど、一応甘さ控えめにしたつもり」
「……もしかして、手作りか?」
「…うん」
「そうか…ありがとう。誕生日知ってるとは思わなかった。すげぇ、嬉しい」
なんだか私までも嬉しくなっていた。
「開けてみてもいいか?」
「ど、どうぞ」
「…こう言うのなんて言うんだ?」
「カップケーキだよ。甘いのあんまり好きじゃないかと思って抹茶にしてみたんだけど…」
「食っていいか?」
「うん…」
味見したし、お母さんにもokもらったから大丈夫。
けど、本人を目の前にすると少しだけ不安がよぎった。
「…ん、うめぇ」
「本当!?」
「ああ。雪水料理できるんだな」
「料理というか、お菓子はたまに作ったりしてて。でも、最近作ってなかったからあんまり自信なかったんだけど…」
「そうなのか?普通にうめぇ。残りは持って帰る」
そう言って、残りを鞄に入れてくれる姿に手作りにして良かったと心から思えた。
「そう言えば、雪水の誕生日知らねぇ。いつなんだ?」
「私?1月22日だよ」
「今月か。なんか欲しいもんあるか?」
「え?あ、別にいいよ!」
「俺だけもらうわけにもいかねぇだろ。それに、俺が何かしてぇんだ。なんか考えといてくれ」
「…わかった」
「おお。今日は嬉しかった。ありがとう」
普段あまり笑う事のない轟君の微かに目を細め口角を上げた表情は、今まで見た中で最も深く記憶に刻まれたのだった。
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