第2章 中学生編
紫沫SIDE
あれから私達は学校では極力会話をせず、放課後に学校から少し離れたところで落ち合い、私の家の近くの公園に寄り道をして帰るというのが日課となっていた。
その別れ際、必ず轟君はまるで合図とでも言うように私の名前呼んでからキスをする。
そうして穏やかに日々は流れて、2学期もあっという間に終わりを告げ冬休みを迎えた。
そして今日は12月24日、クリスマスイブである。
「轟君、お待たせ!」
「おお。行くか」
待ち合わせをしていた私達はケーキ屋さんへと向かった。
「ケーキ楽しみだね!」
「ケーキ好きなのか?」
「うん!轟君はケーキ好きじゃない?」
「嫌いじゃねぇけど、別に好きでもねぇな。普通だ」
「普通か…そう言えば、轟君好きな食べ物は?」
「そば、あったかくないやつ」
あったかくないやつ…
「ざるそばのこと?」
「ああ」
少し遠回しだけど、面白い言い方だと思った。
ざるそばって言わないのかな?
もしかして以前に蕎麦と答えて暖かいものと勘違いされたりしたのかも。
それか好みが変わっていったりして。
だから強調する為に付け足すみたいな言い方をしたのかもしれない。
でも、あったくないって、なんか可愛い。
「私も好き、そばのあったかくないやつ」
なんて他愛ないお喋りをしながらケーキ屋さんに着くと。
私はいちごタルトを、轟君はショートケーキを買って、轟君の家へ向かった。
これまでも数回お邪魔しているけれど、一度も家族の人と会ったことはなくて。
何だかわざとそういうタイミングを狙っているんじゃないかと思いつつも、それについて特に追求はしなかった。
「お邪魔します」
誰もいないとわかってはいるものの、毎回挨拶は欠かさずにいた。
「先に行っててくれ」
「うん」
既に歩きなれた廊下を渡り、すっかり見慣れた部屋の中へ入ると。
最早指定席となっている座布団に座り、買ってきたケーキの箱をフライングして覗き込んでいたら、フォークと小皿を持ってきてくれていた。
「ありがとう!」
「おお」
早速買ってきたケーキを箱の中から小皿へと移して。
小ぶりなフォークにのる分だけを一口で。
「…美味しい!」
「良かったな」
「うん!」
ケーキは勿論、轟君と一緒にということが一層美味しくさせてくれているような気がした。
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