第13章 原作編《新学期》
紫沫SIDE
戦闘開始の合図なんてものは存在しない。
「僕…行きます!」
「意外な緑谷!!」
「――!!」
「問題児!!いいね君やっぱり元気があるなあ!」
どこからでもかかってこいと余裕を見せる先輩に、最初こそ多対一の戦闘に足踏みをしていたクラスの皆もいよいよ臨むことを決めたようだ。
「近接隊は一斉に囲んだろぜ!!」
「よっしゃ先輩。そいじゃあご指導ぉー」
「「「よろしくお願いしまーっす!!」」」
先手必勝とばかりに勢いよく飛び出し奇襲をかける緑谷君に対して、先輩は何の構えを取ることもなくただ無防備に立っているだけ。
当然"個性"を使っているのだから、避けるなり防ぐなりしなければ只事では済まないことは一目瞭然な筈なのに。
それでも微動だなしない先輩をおかしく思った。
どんな些細なことも見逃さぬよう、先輩を凝視していた視界に映り込んできたのは予期せぬ肌色。
それが何かを理解するよりも早く。
「…え?」
無意識に発した声が掻き消される速度で視界は反転し、その先に見えたのは見慣れた紺色で。
現状把握をする間もなく、女の子達の叫び声が耳に届いた。
「あーー!!」
「今服が落ちたぞ!」
「ああ失礼。調整が難しくてね!」
服が落ちるとは一体どういうことなのか…
「いないぞ!!」
「まずは遠距離持ちだよね!!」
「ワープした!!すり抜けるだけじゃねえのか!?どんな強個性だよ!」
次いで聞こえたのは先輩の"個性"に関する声だったけど、残念なことに耳からの情報だけで把握するのは難しい。
何が起きたのか。
一刻も早く自らの目で確かめなくては。
英雄科のトップが手解きしてくれる折角のチャンスに参加できない分、せめてその姿はこの目に収めたい。
凄まじい反射神経で私の視界を奪った紺色の正体が誰かなのは見なくてもわかってる。
「あの、焦凍君」
「悪ィ。反射的に手が出ちまった」
「ううん。それより何で…」
声をかければ拘束はスルリと解かれ、視界を元に戻しながら焦凍君の行動の起因を聞こうと口を開いたけど。
「おまえらいい機会だ。しっかりもんでもらえ。その人…」
この目に捉えた光景と、相澤先生の言葉が優先された意識は私の言葉を曖昧に終わらせた。
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