第13章 原作編《新学期》
紫沫SIDE
掃除機の機械音が際立つ異様な静けさを破ったのは、緑谷君の控え目な声だった。
「シュートスタイルさ…どうだった…かな…」
「……」
そう言えば、どこまで通じるのか試したいと言っていたけど。
いつもなら食い気味に聞こえてくる筈の怒声は聞こえず、暫くの沈黙の後ボソリと呟く様な声が聞こえた。
「予備動作がでけえ。速度アップしてもギリ反応出来た。乱打戦にゃ向いてねぇ」
「……そっか」
それから、もう一呼吸置いて。
「パンチを合わせんのは、腹立った」
「……そっか…!」
ぎこちない会話だけど、聞いていて思わず口角が上がってしまいそうになる。
仲の悪さが悪目立ちしていた2人が、これからは読んで字の如く「喧嘩するほど仲が良い」って言葉がしっくりくる関係性を築いていくんじゃないかと思えて。
掃除機をかける2人の横で窓を拭きながら、さっきまでの居た堪れなさはもう感じなくなって、ふとある疑問が浮かんだ。
「ねぇ、2人共。聞いてみたい事があるんだけど…」
「何?雪水さん」
「2人は幼馴染みなんだよね?いつから一緒だったの?」
「ああ゛!?ンだ、その気色悪ィ質問はァ!?」
聞き方を間違えた。
「あー…その、出会ったのはいつ?」
「んー、そうだなぁ…幼稚園が同じだったから、その辺りかな」
「ケッ…」
「幼稚園!?そんなに前からだったんだ」
「あの時は…バクゴーヒーロー事務所とか、よく遊んだよね!」
「勝手についてきやがったんだろが!クソが!!」
「僕は一緒に遊んでるつもりだったんだけどな…」
「あはは…でも、そんな小さい頃からの幼馴染が近くにいるって、何か良いね」
「はァ?どんな思考回路してんだ?てめェはよォ」
どんなと言われてもそう思ったのだから仕方ない。
同じく幼馴染みがいるからこそ、尚更に。
「私には小学校からの幼馴染がいるんだけど。高校は別になっちゃったから…ちょっと2人が羨ましいと思って」
「そうだったんだ。その子はヒーロー志望ではなかったの?」
「うん。まぁ、私も当時は違ったけど…それでも進路が違ったから互いに別の道に行くことになったんだよね」
「だからなんだっつーんだよ。幼馴染みっつうのは変わんねーだろうが」
「変わらない……かな」
ぶっきらぼうな言い方だけど、幼馴染を目の前に断言する爆豪君からの言葉はとても心に響いた。
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