第12章 原作編《デクvsかっちゃん》
紫沫SIDE
無駄な抵抗も虚しく、目を閉じてから数秒後に肌が触れる感触がした。
「ふがっ…」
「ハッ、バァーカ」
けれどそれは想像してたものとは違う感覚で、閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げ見えたのは…
私の鼻を摘む爆豪君の手。
あれ程近くにあった筈の顔は少し離れた場所にあった。
「な、何する」
「目閉じてんじゃねぇよ。見えねェだろが」
「え?」
鼻を摘む手が離れて、今度はこちらがジッと見つめられている。
爆豪君は何を考えてるのか分からなくて同様に見つめ返すしかなかった。
「あの、一体どう言う…」
「あ?わかンねーのかよ」
「いや、わからないことだらけなんだけど…?」
「…まァ、だろうな」
「えと、さっきから一体何の話?」」
説明をして欲しいと訴えてるつもりなのに、一つも伝わってない気がする。
「誰が教えてやるかよ。これまで散々ヒトをムカつかせた報いだわ。精々悩みやがれ」
「意地悪だ…」
散々とは…一体いつ、私が爆豪君をムカつかせたと言うのか。
接点も殆どなかったのに、そんなの身に覚えがない。
「取り敢えずもういい。そろそろ部屋戻ンぞ」
「え?ちょっ…」
ここに来た意味を何一つ成せていないのに。
有無を言わせない態度は爆豪君の得意とするところで、簡単に逆らうことは出来なかった。
「…オールマイトの件に関してはもう気にスンナ。俺だって整理すんのに時間が要ンだよ。それから…」
話しながらその場を後にしようと立ち上がった爆豪君は未だ座ったままの私を見下ろしてから。
「次、てめェになんかあった時は俺が救けてやる。半分野郎にやられっ放しは腹の虫が収まらねぇ。だからよォ、二度と前みてぇな目すんじゃねぇぞ」
「だから、それってどういう」
「じゃァな。相澤先生に見つかる前にさっさと部屋に戻れよ、雪女」
最後に人の話を遮るだけ遮って一方的に喋るだけ喋って、爆豪君はエレベーターの中へと姿を消した。
どちらかと言うと腹の虫が収まらないのは私の方なんだけど。
追いかけて問い詰めるわけにも行かず、大人しく部屋に戻るしかなかった。
そう言えばずっと「てめェ」呼ばわりな挙句最後は「雪女」で締められて、たった一度だけ呼ばれたことのある名前はもう呼んでくれることはないのだろうかと。
頭の片隅を掠めた思考はすぐに消えて何処かへと姿を隠したのだった。
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