第12章 原作編《デクvsかっちゃん》
紫沫SIDE
一度気付いてしまうと見れば見るほどにそれは私の良く知る紅とは違って見えて。
それでも一向に何が違うのかの答えを見出せず、無遠慮に見つめているという自覚が欠けていた。
「オイ」
掛けられた声にハッとした時には爆豪君の顔があり得ないくらい近くにあって、それは以前にも身に覚えのある距離感で。
咄嗟に身を引こうとした刹那、それを阻止する様にまたしても首の後ろを掴まれた。
「さっき、何でもするっつったよなァ?今から俺がいいっつーまでジッとしてろ」
確かに何でもするとは言ったし、出来る事であればとも言った。
ジッとする事を出来ないわけではないけど、如何せんこの距離の近さには身体を反射的に引きたくなる。
それにそうすることに一体何の意味があるのか。
理解の及ばない事態に私はその言葉に従うしかなかった。
「俺の目は生まれつきこの色だわ。ンなに見たきゃ思う存分近くで見せてやるからよォ。目ん玉ひん剥いて、よォくその目に焼き付けろや」
これはもしや私に対する嫌がらせなんじゃないかと思った。
正直不躾なことばかりをしてた気はする。
爆豪君とはそんなに仲良い訳でもないのに余計なお節介を働かせた挙句に、人様の顔をジロジロと凝視すれば誰だっていい気はしない。
その上自分の撒いた種で招いたこの状況を、自力ではどうすることも出来なくなっていた。
「ったくよォ、てめェはハナから気に食わねェ事ばっかしやがる。そのクセ眼中にはアイツしかいねェ。そんなんだから、奪ってやりたくなンだよ……なァ、てめェで言ったことだ。今ここで奪われても文句はねぇよな?」
「気に食わない」とか「アイツ」とか「奪う」とか。
一体何の話をしてるのかわからない。
わかっていることはただ一つ。
後ほんの少しでも距離が縮まれば爆豪君に触れてしまうという事。
流石にこんな距離感でされる事がなんなのか、想像できないほど経験は浅くない。
それこそ数え切れないほどしてきた。
紅白頭の彼とだけ。
「待っ…」
「うるせえ」
いくらなんでもこれは出来る事の範疇を超えてる。
駄目だと、身を引こうにも首に回された手に阻まれて一歩たりとも動くことは許されない。
目の前の出来事に唯一自由な目だけでも背けたくてギュッと瞼を閉じた。
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