第12章 原作編《デクvsかっちゃん》
紫沫SIDE
「憧れ」と一言で言っても人の数だけ色んな形があって違うから、それに優劣はないと思う。
だから正しいとか間違ってるとかそんな言い方は当て嵌まらないんじゃないだろうか。
けどたまたま違う二人が同じ人に対して「憧れ」を抱いて、それ故の結果に差異が生じた。
結果は時として、とても残酷で厳しい。
誰かに「憧れ」を抱くということはとても素敵なことの筈なのに。
今私の耳に入ってくるそれは爆豪君を苦しめ追い詰めているに他ならなかった。
「怪我したくなきゃ構えろ。蹴りメインに移行したんだってな?」
「待ってって!!こんなのダメだ」
緑谷君は戦う気はないらしく、なんとか宥めようとしている。
でも爆豪君はお構いなしに攻撃を仕掛けるから応戦するしかなくて。
「かっちゃん!!!」
応戦しながらも何とかしようと緑谷君は声を掛けるけど、爆豪君はそれに聞く耳を持つ様な雰囲気じゃない。
「った…!!」
「深読みするよな。てめェはァ…来いや!!」
「マジでか…!!かっちゃん…待ってって!本当に戦わなきゃいけないの!?間違ってるわけないじゃないか!君の憧れが間違ってるなんて誰も――…!!」
きっと二人を比べれば私は緑谷君の方が思考は似てると思う。
だから爆豪君の言葉よりも緑谷君の言葉の方が頭に馴染むけど、心は何故か爆豪君に少しだけ傾いている気がした。
「待ってってば…」
「逃げんな!!!戦え!!!」
容赦なく爆破や蹴りが向かってくるから。
それを避けようとした緑谷君の動きで爆豪君が後ろに押されて尻餅をつく。
いつもならあれ位の反動は踏ん張れそうなのに、この時の爆豪君は精彩さに欠けている様に見えた。
すぐに立ち上がらない爆豪君に対して戦意のない緑谷君は当たり前のように手を差し伸べるけど…
「だ…大丈…」
爆豪君はそれを思い切り払い除け、そして叫んだ。
「俺を心配すんじゃねえ!!戦えよ!!何なんだよ!何で!!何で!!ずっと後ろにいた奴の背中を追うようになっちまった!!クソザコのてめェが力をつけて…!オールマイトに認められて…強くなってんのに!なのに何で俺はっ。俺は…」
その叫び声は後半になるにつれて胸を抉られる思いで。
「オールマイトを終わらせちまってんだ」
(何て…何て…悲痛な…)
それは少なくとも、爆豪君からは初めて聞く類の声だった。
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