第12章 原作編《デクvsかっちゃん》
紫沫SIDE
私が雄英に来て、ヒーローを目指したいと思った様に。
2人にとってはオールマイトがそのキッカケであったと。
「なァ、そうなんだよ。ずっと石コロだと思ってた奴がさァ。知らん間に憧れた人間に認められて…」
私とは違い、2人にとってオールマイトという存在は人生に影響を及ぼす程の「憧れ」で。
そんな人が文字通り目の前にいるのだから、その影響力と存在意義は計り知れない。
そして「憧れ」に認められるとは、一体どれだけ凄いことなのか。
たまたまこの場に居合わせた私には「奇跡」なんて、月並みな言葉しか思い浮かばなかった。
「だからよ戦えや。ここで。今」
「何で。ええ!?待ってよ、何でそうなるの!?いや…マズイって。ここにいる事自体ダメなんだし…!せめて…戦うっても自主練とかトッ…トレーニング室借りてやるべきだよ…!今じゃなきゃダメな理由もないでしょ」
どうしてと反論する緑谷君の意見に私も賛成する。
そういえば本来ならここにいてはいけないと言う事をすっかり忘れていたけど。
今更二人を止めることも、自分が去ることも。
選択肢として私の中にはなくて、このまま事の成り行きを見守りたいと思っていた。
そして次の一言に少しだけ、今じゃなきゃならない理由を垣間見た。
「本気(ガチ)でやると止められんだろーが」
至って冷静の様に見えて、その実激情を宿している事がありありと見てとれるだけの声音と表情をしていたのだ。
爆豪君の言う「本気(ガチ)」にはいくつもの意味が込められてる気がして、この二人の間には複雑な何かがあって糸の様に絡んでしまっているんじゃないかと。
2人の幼馴染みとしての軌跡を知らない私でさえそう感じさせるだけの空気が辺りには漂っていた。
「てめェの何がオールマイトにそこまでさせたのか。確かめさせろ。てめェの憧れの方が正しいってンなら、じゃあ俺の憧れは間違ってたのかよ」
それは問い掛け、ではあるんだけど。
(何でかな…緑谷君に掛けてる様でそうじゃなくも聞こえる…)
会話をしている相手は目の前にいるからベクトルの向く先は緑谷君しかないのに、屈折して違う方に向かってる気がしてならいない。
「……かっちゃん…」
緑谷君だけが口にするその名を呼ぶ声に込められてるモノとは…
思い出が交錯する中で溢れた呟きであると知る由はなかった。
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