第12章 原作編《デクvsかっちゃん》
紫沫SIDE
聞いてる方が苦しくなる程に、心の奥底から絞り出す様な。
そんな…苦しくて、哀しくて、やり切れない…そんな嘆き声。
ずっと違和感があった。
緑谷君にぶつける勢いだとしても、会話をしている筈なのにどこか噛み合ってない気がして。
それは今までの言葉がずっと、爆豪君の自問自答だったからなんだ。
「俺が強くて、攫われなんかしなけりゃ。あんな事になってなかった!オールマイトが秘密にしようとしてた…誰にも言えなかった!考えねえようにしてても…フとした瞬間湧いて来やがる!」
普段の爆豪君は粗野で横暴で暴力的で…人を見下したような…そんなイメージが強かったから近寄り難くて、怖いとすら思っていた。
けど本当は優しいところもちゃんとあって、他人の様子をよく伺っていて、機微にも気付ける繊細さも持ち合わせている人だってことも気付いていた。
前者の印象が強すぎたから、後者を意識することが殆どなかったけど。
「どうすりゃいいか、わかんねんだよ!!」
この時の爆豪君は明らかに後者の顔が前面に出ていて、それと新たな一面で少し幼い子供の様にも見えた。
これが俗に言う母性本能がくすぐられるということなんだろうか。
俯いているから表情が見えないけど。
多分、そこには滴が溜まっている気がした。
「……丁度いい…シュートスタイルが君に通用するかどうか…やるなら…全力だ。サンドバックになるつもりはないぞ、かっちゃん!」
緑谷君もその姿を見て何か思う所があったんだと。
私なんかより付き合いも長くてよく知ってるだろうし、直接対面している立場だから、きっとそれは誰よりも一番理解をした上でのことなんだと思う。
そして今の爆豪君にとって唯一全てを晒け出してそれに応えられる存在が緑谷君なんだ。
「っぶな…」
そこからは紛れもない本気の戦いだった。
息つく間もない攻防戦。
「って!!」
「がはっ!」
どちらかと言えば爆豪君が押している様に見えて、緑谷君はうけてばかりだ。
「当たり前だけど…強くなってる…」
「何、笑ってんだあ!?サンドバックにゃならねんじゃねえのかよ!」
「ぐっ…!ならない!」
「どうせまた何か企んでんな!」
それでも簡単になんて勝敗はつかなくて。
一旦距離を置いて、次に爆豪君は爆破の光で緑谷君の視界を奪ったのだった。
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