第11章 原作編《仮免試験》
no SIDE
人目のつかない路地裏へと足を進める、士傑高校の制服を身に纏った女子高生の後ろ姿が一つ。
ボトボトと音を立て身から水分を含んだ粘土の様なものが剥がれ落ちていくと、さっきまでとは別人の顔が露わになった。
『やっとつながった!どこで何してる!?トガ!!』
それは敵連合の一人である渡我被身子。
耳元にある右手に持つスマホからは同じく敵連合・Mr.コンプレスの声がしている。
「素敵な遊びをしていました」
『定期連絡は怠るなよ!一人捕まれば全員が危ないんだ!』
「大丈夫なんです。私は今まで見つからずに生きてきたので。それに有益でした。弔くんが喜ぶよ」
仄かに頬を赤らめ、両端の口角は緩く上がり、隙間から覗く歯列の四隅には立派な犬歯が生えている。
細められた目元の前に上がる左手の中に小瓶が一つ指先で摘まれ、そこに入ったたった一滴の血を見つめる姿はまるで食事を手に入れた吸血鬼の様。
「出久くんの血を手に入れました」
うっとりとした表情でその僅かな血を見つめる渡我の背後から音もなく忍び寄った人影は、狂気じみたその姿を気に留めることなく、普段と変わらぬトーンで声を発した。
「トガ、お待たせ」
「あっ、お帰りなさいです」
聞こえた声にパッと反応を示した渡我は声のした方に目線を向け、異なる背の高さ故に見上げたその目元は寸前とは打って変わりくるりとして年相応の表情を浮かべていた。
『近くに誰かいるのか!?』
声だけで状況の見えないMr.コンプレスの慌てて荒げた声に少しだけ耳元からスマホを遠ざけつつ、これ以上あらぬ誤解をされて怒鳴り続けられるのは勘弁とばかりに意識をスマホへと戻す。
「業くんです。一緒に遊んでました」
その人影もまた敵連合の一人である業だった。
「電話?Mr.コンプレス辺りからかな?」
「正解です!これ以上お小言聞くのは嫌なので通話切りますね?」
スピーカーから聞こえて来る声はお構いなしに、渡我は躊躇うことなくディスプレイ上の通話終了のアイコンをタップした。
そして用件は済ませたとスマホはスカートのポケットに仕舞い込んだ。
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