第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
仮免二次で敵が現れ応戦する為に先に駆け出した焦凍君と別行動になっていた間のこと。
受験者同士協力が必要な場面で夜嵐さんと衝突してしまい、試験に集中出来ず他の受験者を巻き込んでしまいそうになった。
過去の自分がそうした事態を招く原因になっていたんだと。
「そんなことがあったんだ…」
ヒーローになる為に必要な資格を取る目的だったけど、今回の仮免試験でそれは叶わなかった。
けど、どうしてダメだったかの課題はちゃんと見えているし、次の目標も提示されている。
だから、悲観するのではなく成長の糧にして。
次こそ必ず成し遂げよう。
口には出さずともそんな思いが伝わってきて、それと同時に握られた手を引っ張られた気がした。
実際には1ミリもその場から動いてはいないんだけど、ただの気のせいだとは思えなくて。
焦凍君の横顔をみつめていると次に重なったのは、色褪せることなくどこまでも私を魅了するオッドアイ。
いつもはある筈の高低差がないせいか、より一層鮮やかに見えた。
「仮免補講、頑張ろうな」
その言葉は決して特別なものではないけれど、それに込められた思いが重ねられた2つの熱を通して伝わってくる。
置いていったりしない。
前に進む時は一緒に。
二度とあの頃のような離れるという選択肢はしないと。
「うん」
幼い頃からヒーローになるべく努力を続けてきた焦凍君と比べれば、私はまだまだ力不足なとこが多い。
それでも同じ目標を目指して歩みたいとヒーロー科に残った。
私の方こそ足踏みしてる暇なんかない。
少しでも近づけるように全速力で追いかけないと。
繋がれたこの手に応える為にも。
「頑張ろうね」
大きな試練の中で躓いてしまい思い通りに乗り越えることは出来なかったけど、休んでる暇はないと示された新たな目標を胸に。
校内だけでは味わえない出会いと経験から貴重な1日となった夏休み最終日。
寮に着くまでの車内は、戦士達が束の間の休息を取るべく暫くすると静かな空間へと変わっていった。
御多分に漏れず、ゆっくりと瞼が下がり始め自然と隣にある温もりを求め寄り添うようにして身体を預けていた。
そうして私はすっかり忘れてしまっていたのだ。
仮免二次の後で抱いていた違和感のことを。
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