第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
焦凍君の足元まで近付くと流れるようにして手を取られ、引かれるままバスの方へと脚を進める。
たまたまなんだろうけど。ついさっきまで夜嵐さんと握手を交わしていたのと同じ手を繋がれて、同じ男の子でもまるで違う感覚に胸が小さくトクンと跳ねた気がした。
「話してるとこ邪魔しちまって悪ぃ」
「大丈夫。伝えたかったことは言い終わってたから。もしかして皆もうバスに乗ってる?」
「ああ。あとは俺らだけだ」
「ヤバっ、早くしないと相澤先生に」
「そこの2人!後バスに乗ってないのお前らだけだぞ!早くしろ!!」
「…一歩遅かったみたい」
「急ぐぞ」
バスまで駆け足で向かうと1-Aの皆は既に着席していて、唯一空いていたのは一番手前の席だけ。
幅の無い乗り口を通る際に繋がれた手はするりと放れていった。
先を譲られ窓際の方に座った後に続いて焦凍君が隣に座ると間も無く、バスは仮免試験会場を後にする。
急く気持ちが落ち着いたところで、伝えるべきことがあるのを思い出した。
「ねぇ、焦凍君。仮免試験の控え室で士傑の人達が来た時のことなんだけど…」
「なんだ?」
「あの時思わず手を引いちゃったのは嫌だったからとかじゃなくて、なんて言うか咄嗟に体が動いたというか…!」
明確な行動原理を自分自身がわかっていないと今更ながら気付き、口をついて出ていたのは曖昧な言い訳ばかりで。
つらつらと言葉を並べるよりも、一言を告げる方を選んだ。
「ごめんね…」
「いや、俺も士傑に気を取られてたからな。紫沫が引いたとは思ってねぇぞ」
「焦凍君も?」
「少し気になるやつがいたからな」
「それって、夜嵐さん?」
「…あぁ」
少し歯切れが悪そうに返ってきた肯定の言葉と同じくして、空いていた手を上から覆い囲むように。
再び焦凍君の手が私の手をギュッと握り締める。
隙間なく肌と肌が触れ合う感覚とそこから伝わる微かな緊張感に今度こそハッキリと胸が高鳴ったのを感じた。
「過去を、忘れたままには出来ねぇって…気付かされた」
同じ学校にいながらも傍にいられなかった私の知らない中学最後の1年間。
前にも増してエンデヴァーを見返すことだけに囚われていて、雄英の入試で夜嵐さんとは出会っていたのにすぐには思い出せなかったと、仮免試験中にあった出来事を話してくれた。
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