第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
まさか、相澤先生の様な"個性"を使えなくする"個性"の持ち主なのだろうか。
しかしその前には声を出せなくされてるし、"個性"に限ったものじゃないとしたら。
緊急事態とも言える状況下に"個性"の謎は深まるばかりで、敵に対する対抗手段も絶たれている。
焦りばかりが募っていく最中、追い討ちをかけて第三者の声がした。
「業くん!やっと見つけました」
「ここに来るってことは、そろそろ時間?」
「どうですかね?私は満足しちゃったので、そろそろ切り上げようと思います!」
目線が向いてる方とは逆側から聞こえてきたのは女の人の声。
頭を抑えられて一方しか見れない状態ではその姿を見ることは叶わないけど。
口ぶりから業の仲間であるらしいその人物には心当たりがある。
ただでさえ危機的状況だというのに、未だに身動きの取れない状態で2対1はあまりにも不利だ。
「お遊びもここまでか。今日の事をすぐに公にされると困るんだよね。だから喉は元に戻してあげる。その代わり記憶するとこに"個性"を使わせてもらうよ。機能に支障が出ない程度にね」
独り言にも似た呟きの後、頭の中に靄がかかり始める。
喋り声が聞こえている筈なのに単語を認識出来なくて、内容を聞き取ることが出来ない。
数秒もしない内に意識を保つことが困難になり、霞んでいく目に映ったのは、辺りを覆う木々の隙間から炎が風の渦に乗って柱みたいに空に伸びている光景。
「しょぅと……く、ん…」
そう言えば敵が現れたと救援に向かった先の方角だった様な。
そう思ったのを最後にフッと意識が途切れた。
「何か言った?」
「何も言ってないですよ?」
「……まァ、いいか」
「コノ人、どうするんですか?」
「すぐに意識を取り戻すだろうから、そしたら改めて救護所まで運んでもらうよ。役割を果たさないと怪しまれるからね。それに目的も出来たし」
「なら、私は一足先に戻ることにします。また後で落ち合いましょう!」
「うん。また後でね」
跨っているところから身を退き、うつ伏せのままになっている身体を起こすと、体勢を整えて意識のない身体を支えているとわからない程度に身を寄せた業は何事もなかったかの様に声音を変えてその口を開いた。
「あの、ありがとうございます」
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