第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
声を出せなくするなんて芸当が出来るとすればそれは間違いなく"個性"によるもの。
だけど首を絞められていた以外には何も異変を感じられなくて、思いにもよらない事態と状況に懸念ばかりが募って思考と反応を鈍らせる。
そうして生じた少しの隙が仇となって、気付けば地面にうつ伏せになり背中の上に感じた重み。
背中に回された両腕の手首は片手で括られ、もう一方の手は後頭部の上に置かれピクリとも動かす事を許されない状態になっていた。
「!?」
「僕の動き、見えてなかったよね。そんな事でヒーローになんてなれるのかな?」
業の言う通り、次から次へと身に起こる事態に対処しきれずこのザマだ。
業の身のこなしは無駄がなく、とても速くて。
戦闘技術云々より以前の、身体能力そのものが上であることは明白。
だからってこのままやられっ放しになっていい筈がない。
日々の厳しい訓練は一体何の為だったのか。
ここにきて漸く今優先すべきことを理解して、ここからの打開策を講じようとした矢先。
業が身を屈ませ耳元に口を寄せている気配がすると、次に訪れたのは背筋がゾクリとするアルト声の囁きだった。
「だからさ、もう諦めなよ」
現状を打破すると決意した今、屈してなるものかと。
唯一自由な目線を可能な限り業に向け睨み付ける。
(絶対に!諦めない…!!)
手段を選んでなんていられない。
我武者羅になって最大威力で発動させた"個性"に、僅かに身を引いた業の1トーン下がった声音がした。
「悪足掻きして何になるって言うんだよ。もう少し従順な子だと思ってたんだけどなァ…」
呼応して頭を押さえ込む手に更に力が込められ、ミシミシと頭蓋骨の軋む音がする。
それでも身体を動かせない中、出来ることはこれしかないと今出せる最大限まで威力を上げ続けた。
「少し痛い目みないとわからないみたいだね。っても、手荒なことはしちゃマズイって言われたし……すぐには気付かれなさそうなモノなら良いかな」
一体なにをするつもりなのか。
目の届かない背後ではそれを伺い知る事はできなくて。
何をされるとしてもただでやられたくないという一心が私を突き動かす。
この調子でいけばもう間もなく冷気を纏い、直接触れることが出来なくなる筈。
(後少し…!)
そう確信した瞬間、己の意思に反して"個性"が止まったのだった。
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