第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
ダメ出しが滝の様に流れを止める事なく吐き出されて。
思いもよらない人物から発せられた言葉に頭の反応は鈍く、真正直に周りに目をやると。
「ここまでを暫定危険区域に設定する」
「いや、もっと広くだ!テロだぞ。もっと被害がでかくなるかも!」
「とりあえず道とヘリの離発着場をつくる。どいてろ!」
「救護所は控え室で!」
「だいぶ広いぞ。一時救出場を設定しよう」
「トリアージはとりあえず私がやります」
そこかしこで、他校の人達がテキパキと行動を起こしている事に気付いた。
救助において現場の数だけ何が必要なのかは違って、それを優先順位を間違う事なく順序立ててこなしていくのは緊急事態であればある程、しっかりと身につけてないと出来ない動きだ。
「救出・救助だけじゃない。消防や警察が到着するまでの間、その代わりを務める権限を行使し、スムーズに橋渡しを行えるよう最善を尽くす。ヒーローは人々救ける為あらゆる事をこなさなきゃならん。何よりあんた…私たちは怖くて痛くて不安でたまらないんだぜ?掛ける第一声がええ!大変だ!!じゃあダメだろう」
ぐうの音も出ないとは正にこの事だ。
知識がないわけじゃない、実習も授業で何度もしてきた。
それでもいざ実戦となった時、何一つ活かせず足も手も思考すらマトモに働いていなかった。
ここにきて漸く頭に浮かんだのは、エンデヴァー事務所での職場体験で経験した事。
あの時は後方支援ばかりだったけど、紛れもなく人命救助の現場をこの身で体験したではないか。
ヒーローを目指したいと思ったキッカケの一つだ。
このところ敵と戦う事ばかりに目を向けていたから。
人の命を救けるという事は戦うばかりじゃないんだ。
敵だけじゃなく、命を脅かすモノ全てから護り抜くのがプロヒーロー。
「大っ丈夫!!」
HUCと相対していた緑谷君も何かを自覚した様子で、さっきとは表情が打って変わっていた。
それを良しとみなてくれたのか。
「ひっ、うわああんあっちでえ!おじいちゃんがっ、ひっ」
プロの実力をここぞとばかりに発揮してくれる。
「大丈夫さ、必ず救けるよ。僕はこの子を救護所まで運ぶから皆、先行ってて!!」
「おう!」
「頑張っぞ!」
HUCを連れて行く緑谷君を見送るつもりで向けた視線は、その背を強く見つめる女の子の姿を捉えていた。
.
