第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
向かい合わせで服を脱ぐことに比べればマシかもしれないけど、向けている背に視線を注がれている気がして、自意識過剰にも意識をせずにはいられない。
変な緊張感のせいで顔が僅かに火照るし、動作ものろのろとしている。
チャックを下ろせば中にはタンクトップを着ているから上半身はまだ大丈夫。
問題はここから先だ。
下半身は服の下にタイツがあるけど、それだけになるというのは不格好になるから纏めて脱いでしまいたい。
でもタイツを脱いだらいよいよ下着しか残らない。
小さな葛藤と戦いながらも早くしないとまた何をされるかわからないという焦燥もあって、意を決して腰にある手を足元まで滑らせた。
そうしてとうとう上はタンクトップに下はショーツという人前では忍びない姿に。
「紫沫、こっちだ」
「う、うん…」
声を掛けられて振り向けば椅子に座るよう促され、言われるがままに腰を下ろせば上から順に淡々と手当てをしてくれて。
まるで意識をしているのは私だけで、焦凍君の意識は専ら傷口に注がれている。
改めて至近距離で見る左右非対称のコントラストと整った顔立ちについつい見惚れて、手当ての手際の良さにも釣られて。
さっきまで気にかけていたことは徐々に頭から抜け落ちていた。
「腕の傷はこんなもんか。次は足だな」
椅子に座る私に対して焦凍君は床に膝をついて。
足の付け根に近いところから手当てを再開した瞬間。
「痛っ」
予想外の痛みが伴って思わず声が漏れた。
「腕に比べて足は少し傷が深いな」
「少し薬が沁みただけだし、少し位我慢できるから大丈夫だよ」
防御壁が不充分だったのかもしれない。
油断してただけで大したことはないと、痛みをきにかけてくれてるんだと思ってた。
「痕にならねぇといいが…」
薬の余韻で痺れが残る傷口のすぐ側をなぞる指先に控え室でのことが蘇って。
直接触れてきた時の感覚を思い出したりしたものだから、余計にくすぐったく感じて。
反射的に握った手は口元を覆って瞳をギュッと閉じていた。
「少しじっとしてろよ」
真っ暗な視界の中、太腿の敏感なところに何か柔らかいものが触れたかと思えばよく知った鈍い痛みへと変わって。
咄嗟に開けた視界に映ったのは、内太腿に唇を寄せている紅白に分かれたつむじだった。
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