第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
「ねぇ、ここって勝手に入っていいの?」
「あそこで待ってても埒があかねぇ。それなら、俺の手持ちで手当てした方が早いと思ったんだ」
「それにしたって、なんでこんなところに?」
「コスチューム、脱がないと手当て出来ねぇだろ」
上下が繋がっているコスチュームにタイツの下にある傷を手当てするには下着姿にならないといけない事を言われるまで忘れていた。
確かに焦凍君の腰ベルトに下げている応急処置用の薬で事足りるし、コスチュームを脱ぐなら人目のつかない場所に来る必要はある。
そうだとして何で焦凍君がこんなところに空き部屋があるのを知っているのかが疑問で問いかければ、医務室に向かう途中でここから出てきた人がドアに鍵をかけないまま去って行ったのを見たらしい。
だからといって無断で使っていいのかと首を傾げている私に対して、構う事なく催促の言葉がかけられた。
「どうした?そのままだと手当てできねぇぞ」
「あ、うん。今脱ぐ…って、待って。自分でするから焦凍君は外で待ってて」
「遠慮するな。自分だとやりにくいだろ」
「そ、うだけど。いや、そうじゃなくて…」
「何か問題でもあるのか?」
何故私が渋っているのかが全くわからないという口調と表情になんと説明すべきかを悩ませる。
なんの羞恥心もなく、異性の前で簡単に下着姿を晒せる度胸を私は持ち合わせてはいない。
それが例え体を重ねた経験のある相手だとしても。
そういう場合とはまた違う羞恥心があるのだ。
明確に言葉で線引きをすることが出来ない羞恥心の境界をどうしたらわかってもらえるんだろうと頭を捻らせている間に、焦凍君は痺れを切らしたらしくあろうことかコスチュームのチャックに手を伸ばしてきていた。
「ちょっ…!?」
「何を躊躇ってんのか知らねぇが、自分で脱ぐ気がないなら俺が脱がすぞ」
「わ、わかった!自分で脱ぐから!!」
焦凍君の言い分に何処か納得できない部分があったものの、容赦なく脱がそうとしてくる手を制止する為、咄嗟に出た言葉は引っ込めることは許してくれそうにない様子で。
こうなっては腹を括るしかないと、せめてもの抵抗に背中を向けてコスチュームのチャックに自らの手を伸ばした。
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