第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
足を踏み入れた会場はそこそこの広さにも関わらず満員状態で、最後尾の私達から一番前の壇上にいる人の姿をはっきりと捉えることは出来なかった。
それだけ多くの受験生達がひしめき合う中。
いよいよ試験開始を告げる声がマイクを通して会場内に響き渡った。
「えー…ではアレ仮免のヤツを、やります。あー…僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく。仕事が忙しくて、ろくに寝れない…!人手が足りてない…!眠たい!そんな信条の下、ご説明させていただきます。ずばりこの場にいる受験者1500人一斉に勝ち抜けの演習を行ってもらいます」
その声には覇気がなく、疲れ切ってるのが見えなくてもわかる程で。
社会の厳しさを痛烈に語る出だしから始まった口上に若干の不安を抱きながら。
目良さんが現代のヒーロー社会について述べた後に続けて口にしたのは…
「ーー…とにかく…対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵退治に切磋琢磨してきた結果。事件発生から解決に至るまでの時間は今、ヒくくらいに迅速なっています。君たちは仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについていけない者。ハッキリ言って厳しい。よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」
「!!?」
「待て待て1540人だぞ!?5割どろこじゃねえぞ!!?」
周りから聞こえる声が、今回の仮免試験を通過する事はどれだけ難しいかを物語っていた。
「まァ社会で色々あったんで…運がアレだったと思ってアレして下さい」
「マジかよ…!」
只でさえ1年である私達には不利な状況だと言うのに。
「通過者は1割未満…」
「容易くはねぇが…何人だろうと合格するつもりなのは変わらねえだろ」
「…そうだね」
雄英生にとって、無理難題を突きつけられるのは今に始まったことじゃない。
なんたって校訓が"Plus Ultra(更に向こうへ)"なのだから。
高い壁をガムシャラに越えていく皆の姿に憧れて。
今私はここに立っている。
「絶対、合格しようね!」
「おお」
共に歩んでくれと言われたあの日。
私も望んでそれに応えた。
隣に立っている大好きな人の傍に。
誰よりも近くにいたいから。
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