第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
「…俺も、紫沫が傍にいることを幸せだ。と思う」
二人でいることが今の私達にとっての幸せなら、それで充分だと思った。
今触れているのは指を絡め合って繋いだ手だけど、それはまるで唇を重ねた時にも似た心地良さで。
言葉では伝えきれない想いを交わしてるみたい。
周りからここだけが切り離されたようなひと時に浸っていると。
大勢の人の気配がして、私は現実へと引き戻されたのだった。
「何だおまえの高校(とこ)もか」
「そうそうおいで皆!雄英だよ!」
「おお!本物じゃないか!!」
「すごいよすごいよ!TVで見た人ばっかり!」
「1年で仮免?へえーずいぶんハイペースなんだね。まァ、色々あったからねえ。さすがやることが違うよ」
「傑物学園高校2年2組!私の受け持ち。よろしくな」
気配の正体は私達と同じ受験生で、さっきとは逆にこちら側が興味を注がれていた。
その中でも黒髪の男子生徒が一歩前へ出て来ると、一人ずつ手を取り目を合わせながら。
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」
「えっあ」
「しかし君たちはこうしてヒーローを志し続けているんだね。すばらしいよ!!不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」
「真堂」と名乗った学年が一つ上の先輩に当たるその人は、颯爽とそう告げ最後にウィンクまでしていた。
「ドストレートに爽やかイケメンだ…」
「中でも神野事件を中心で体験した爆豪くん。君は特別に強い心を持っている。今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
同様に手を取ろうとした瞬間、爆豪君はそれを手で払いのけて。
「フかしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねえんだよ」
「こらおめー失礼だろ!すみません、無礼で…」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
こちらからは見えなかったけど、一体どんな面を見たら年上に対してそんな態度が取れるのだろうかと。
視線を送っていたらその面が次に向けられたのは私で。
「君も確か神野事件を体験した…雪水さん。体育祭では姿を見なかったけど、ここにいると言うことは紛れもなく雄英生としての実力を持っている証拠だ!その実力を倣うつもりで挑ませてもらうよ」
そうして三度伸ばされた手は私ではない一回り大きな手によって遮られていた。
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