第11章 原作編《仮免試験》
紫沫SIDE
隠れる様にして繋いだ手だけど。
そんな私たちを他所に、皆は突如輪に入ってきた男子生徒の話題で持ちきりだった。
「なんだ、このテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような…!」
「待って、あの制服…!」
「あ!マジでか」
「アレじゃん!!西の!!有名な!!」
「東の雄英。西の士傑」
爆豪君が言った言葉が耳に入って、再び男子生徒の方へと目を向けた。
高校受験の時にはヒーロー科を目指していなかった私でも知ってる学校名だったから。
「数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校——…士傑高校!」
「一度言ってみたかったっス!!プルスウルトラ!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス。よろしくお願いします!!」
「あ、血」
「行くぞ」
顔を上げた男子生徒の額からは血が流れているのにそのまま背を向けて歩き出すのを見て、反射的に"個性"を発動してしまった。
「うわ!何スか!?キラキラしたもんが周りに!?」
「煩いぞ。イナサ」
"個性"伸ばしの成果は"治癒"にも現れていて、開いた傷口を完全に塞ぐとまではいかないけれど。
血を止める程度なら可能になっていた。
「"治癒"…使ったのか?」
「怪我してるの見て、思わず…」
「そうか」
少し離れていたし、ほんの少しの間だけだったから皆にはバレていない筈。
けど隣にいた焦凍君の視線は男子生徒に向けられていたみたいで、きっと見慣れた光景だったからすぐに気付かれてしまった。
やはり"個性"を勝手に使うのはマズかったかなと思っていると、僅かに絡まる指の力が強まった気がして。
「焦凍君…?」
「何だ?」
「…ううん。何でもない」
特に変わった様子のない表情に私の勘違いだったかもしれないと話題にするのを止めたところで、相澤先生の声が聞こえた。
「夜嵐イナサ」
「先生、知ってる人なんですか?」
「すごい前のめりだな。よう聞きゃ言ってることは普通に気の良い感じだ。ありゃあ…強いぞ。夜嵐。昨年度…つまりおまえらの年の推薦入試。トップの成績で合格したにも拘らず、なぜか入学を辞退した男だ」
「え!?じゃあ…1年!?ていうか推薦トップの成績って…」
先生の話を聞いてる間に焦凍君の視線は再び夜嵐と言う名の男子生徒へと向けられていた。
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