第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
卒業式の事件の時に、お父さんの事務所は荒らされ全てを燃やされていたらしい。
もし手掛かりがあるとすればその中にあったんだろうけど、塵と化しては無いのと同然で。
私の記憶だけが頼りとして、たった一人で探し出せるだけの情報も技術も持ち合わせてはいない。
今も何処かで無事でいてくれるんじゃないかって。
そう願うことしか出来なかった。
「私がその話題に触れるとね、両親は決まって申し訳なさそうな顔をしてたから、自ずと心の内に留める事が癖みたいになってて…今朝夢に見るまでは記憶の片隅にしまわれてた位だから…」
俯く私に優しい掌が添えられて、誘われるまま隣を見上げれば。
不安を拭い去ってくれる優し気な瞳がそこにはあった。
「それでも、無事でいるって信じてるんだろ?」
「…うん。また、会いたい。朧気な記憶ばかりだけど、本当の姉妹みたいに仲良くて、凄く好きだったのは覚えてるから。その気持ちは今も変わらない」
何処かで諦めなきゃって思い込んでいたのかもしれない。
10年以上も行方がわからないままだから。
でも焦凍君の言葉で本当の気持ちを見失わずに済んだ。
「ありがとう、焦凍君」
そっと手を、一回り大きな手に重ねて。
その温もりを、存在を確かめながら。
「お姉ちゃんだけじゃなくて…焦凍君を一番に想う気持ちも、ずっと変わらないよ」
「紫沫…」
初めて出逢った日に"付加"が発現して、それが"治癒"だった。
焦凍君に心惹かれて、私がその存在を求めたから。
例えエゴだとしても、失いたくなくて守りたいって想いが強く働いたから発現した"個性"だったのかもって。
三つ子の魂百までって言うけど。
それはきっと、私が私である原点(オリジン)。
「だから…ずっと、傍にいてね…」
「ああ。いつまでも傍にいる」
幾度となく交わした台詞。
それでも欲張りな私は何度も求める。
ヒーローというのは危険を伴って、いつ命を落としてしまうとも限らない。
それでも焦凍君の隣に立ちヒーローになりたいと望む自分と、焦凍君の唯一でありたいと望む自分。
どちらも切り離せない。
「紫沫、愛してる」
「…愛してる。焦凍」
「君」と言う音は唇ごと奪われて。
窓から覗く夜空に浮かぶ月が眩く程に綺麗で。
今夜は焦凍君の唯一でありたいと強く願わずにはいられなかった。
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