第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
「どういうことだ?」
「今はどこにいるのかわからない。というかもうずっと前からわからない…焦凍君と出逢うよりも前の、それこそ"個性"もまだ発現してない頃の事で……華純ーー幼馴染ですら知らないんだけど…」
敵連合に捕まっていた時に現れたプロヒーローに感じたのはその時に経験したもの。
幼過ぎて断片的な記憶だけど、両親から聞いた話とを掛け合わせながら。
「お姉ちゃんと二人、敵に連れ去られたことがあって…その時に私は何とか救けてもらえたんだけど、お姉ちゃんは……何処かに連れていかれて…そのまま行方不明に……」
記憶が曖昧だからなのか。
今まで一度も口にしたことがないからなのか。
上手く言いたいことが纏まらなくて、あの事件のことを話した時のようにスラスラとは言葉が出てこない。
一度途切れた話を急かす事なく焦凍君は黙って耳を傾けてくれていた。
「えと、話を続ける前に一つ。「累加家」って聞いたことある?」
「…いや、多分ねぇな」
「一部の人にはちょっとだけ有名な家系みたいなんだけど、代々"付加"っていう"個性"が発現するらしくて。私のお母さんとお姉ちゃんのお母さんがその家系で、双子だった」
「それで従姉妹か…"付加"っつうのは何なんだ?」
「んーと、私が"個性"二つ持ってるの知ってるよね」
「"雪"と"治癒"だろ?」
「うん。"雪"は両親から受け継いだものなんだけど、"治癒"は累加家から受け継いだものなんだ。本来は"付加"っていう"個性"で、その要因は様々らしいんだけど…親の遺伝による"個性"に何かしらの"個性"が付加される。それが"付加"」
「その"付加"がさっきの話と何の関係があるんだ?」
「ちょっと珍しい"個性"だからってそれを狙う敵がいたみたい。当時まだ子供だった私とお姉ちゃんが狙いやすかったからなのか敵に連れ去られたらしくて」
「…なる程な」
「少し厄介な敵で、当時のプロヒーローが何人か集まって救けに行ったから当時はそれなりの事件として話題になったって聞いてる」
「俺らが"個性"発現する前っつったら10年以上前か…」
「うん」
「「累加家」……どこかで…」
独り言の様な呟きと何か考え事をしている焦凍君の隣で、話すことに多少なりとも緊張していたようで、渇気を訴える喉を潤す為放置して温くなったホットミルクを一口含んだ。
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