第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
ふと、焦凍君はどんな事をしているのだろうかと気になって視線を彷徨わせていると。
炎と氷の同時発動をしている姿が目に入った。
今まで見てきたのはそれぞれに発動しているところだけだったから、同時にというのはできないと勝手に思い込んでいた。
どちらかだけを見ている時だってそうだったのだから当たり前かも知れないけど。
真っ赤に燃える炎と青く透き通った氷のコントラストがとても綺麗で、左右に纏うその光景にどうしようもなく私の目は奪われていた。
慣れないのか苦戦している様子で少し険しそうに浮かべる表情さえも、私の鼓動に影響を及ぼして高鳴るのを感じた。
最近では近くにいることが当たり前みたいになって、こうやって遠くから見つめるのは久しぶりで。
何だか中学生の時のことを思い出した。
一方的に見つめ続けていたあの時の事を。
「焦凍君…」
それは本当に小さな声で、距離もあるから絶対に聞こえている訳なんてないのに。
"個性"同時発動に集中していた筈のオッドアイがふいにこちらへと向けられて、視線が交わった。
額から一筋の汗が流れているのを見つけた直後、こちらを見上げる瞳が少しだけ細められたような気がして。
その顔つきにドキリと心臓が一際跳ねるから、まるで恋に落ちた瞬間を錯覚して視線を更に外せなくなって。
圧縮訓練中だというのに、私の心はどこまでも焦凍君に惹き寄せられていく。
「_______」
声の届く距離じゃないから。
口の動きだけで伝えられたその言葉に胸の熱くなる思いがした。
まるで内緒の話をしているみたいな。
だから私もそれを真似て。
「_______」
私がそうだったように。
きっと、焦凍君にもちゃんと伝わってる筈。
周りに気づかれる事なく交わされた言葉は私達だけの秘密。
ほんのひと時の出来事だった。
同時に視線を外せば、再び新たな技を習得する為の訓練を始める。
入寮したその日の夜に交わした言葉を違えない為にも。
今は訓練に集中しよう。
新たに雪球を装填したスノウガンを構えると、装着したゴーグルに映し出されたポインターで狙いを定めて。
トリガーにかけた指を思いっきり引けば、雪球は勢いよく狙い通りの場所へ。
実践で狙いを定めるにはまだまだ練習が必要だから。
雪球を装填するところから発射までの工程を最短で出来るように何度も繰り返し続けた。
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