第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
「…焦凍君とは同じ中学だったんだ」
「知っとるわ」
「うん…それでね、"個性"のこと…家のこと知ってた」
「は?」
「体育祭の時にたまたま聞いたんじゃなくて、本当は中学の時に焦凍君から直接聞いてた」
「ただの同中ってわけじゃアねェな」
「…そうだね」
その後の言葉がすぐには出てこなかった。
当時周りに隠していたからなのか、私だけじゃなく焦凍君のことでもあるからなのか。
けれど誤魔化し通すことが出来るとも思えなくて。
ゆっくりと重たい口を開いた。
「中学の時にね、少しの間だけど付き合ってた…」
「そういう事かよ」
「うん…ずっとね、見てた…好きだった。気持ちを消せなくて、忘れられなくて…体育祭の時は付き合ってなかったけど、それでも焦凍君のことを想わずにはいられなかった」
「メンドくせェ」
「うっ…確かにそうかもしれない…」
誰かにこの事を話したのは幼馴染以外初めてだったから、周りから見てどうなのかなんて気にしたことがなかった。
「もっと周りに目ェ向けろや。てめェの近くにいんのは半分野郎だけじゃねえだろ」
「そんな人、いないよ…」
焦凍君以外にこんな気持ち抱いたことなんてない。
この先もずっとそれが変わることなんてない。
「あ?今、てめェの隣にいんのは誰なんだよ」
「隣?…えっと、今は…」
そう言われて隣を向けばそこにいるのは…
「…爆豪君?」
「やっとかよ」
「え?どういう」
「やっと、こっち向きやがったな」
その言葉に私はここに来て一度も爆豪君の方を見ていなかったのだと気付いた。
爆豪君の視線はずっとこちらに向けられていたのだろうか。
こんなにも近くで、焦凍君以外の異性を見るのは初めてで。
「爆豪君の目って、紅いんだね」
丁度目線の先にある紅に、ずっと見つめてきた左半分の紅を重ねていた。
「…何処見てやがんだ」
「え?」
「ちったぁコッチを見やがれや…紫沫」
そう言って爆豪君の手が伸びてきて首の後ろを掴まれた。
そのせいなのか、いきなり名前を呼ばれたからなのか。
見つめてくる視線を逸らすことも触れてくる手から逃れることも出来なくて。
ゆっくりと距離が縮まっている気がする。
「んな無防備にしてっと、奪っちまうぞ」
縮まる距離が近過ぎると思っているのに。
何故か紅から目を逸らす事が出来なかった。
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