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【ヒロアカ】雪恋【轟焦凍】

第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》


紫沫SIDE


全ての荷物を整理し終えたところで、隣の部屋の扉の開く音がした。
そう言えば梅雨ちゃんは気分が優れないと聞いて半日以上姿を見ていない。
もしやと思い廊下に出たけど、既にその姿はなくて声をかけること叶わず。
もう遅いし、また明日にでもと中に戻ろうとした時。
何となく視線を向けた中庭側の窓から男子棟の廊下が見えて。
そこを通る焦凍君の姿を見つけて。
思わず立ち止まりその姿を目で追っていた。
そんな私の視線に気付いたのか。
たまたま外を見ただけなのか。
焦凍君もこちらに気付いて歩みを止めると、ポケットから何かを取り出した。
そして私の携帯が着信を知らせて震えだして。
画面を見ればそれは通話の着信で…

「…焦凍君?」
『こんな時間に何してんだ?』
「梅雨ちゃんの部屋の扉が開く音が聞こえてちょっと気になって…」
『…さっき呼ばれたやつ。蛙吹からの話だった』
「梅雨ちゃんから?」

それは神野事件のこと。
梅雨ちゃんは今朝の話から皆とお喋りが出来そうになくなっていたらしい。
でもそれではとても悲しいからちゃんと話をして拭い去りたいと思っていたのだと。

「そっか…」
『紫沫が気にすることじゃねぇぞ』
「うん…」
『蛙吹ともちゃんと話せた』
「わかってる…けど…」

救けられた時は自分のことばかりで、周りの事が疎かになっていた。
今朝の話で周りを良くない方へと巻き込んでしまったことを悔やんだ。
同じ過ちを繰り返さない為に前に進む事を決めたけど。
その事実が消えることはない。

『…もどかしいな』
「え?」
『姿は見えてんのに、ここからだと抱き締められねぇ』

聴こえてくる声は機械越しで。
手を伸ばしても届かない距離で。

『昨日まではいつでも触れられたのにな』
「っぅん…」

僅かでも縮めようと彷徨う掌を無機質で冷たいガラスが邪魔をして。
たった数日だったけど。
いつでも触れられる距離にいたことが恋しさを募らせていく。

『紫沫、強くなるんだろ』
「…なる。もうこんな思い二度としたくない」
『俺も同じだ。だから明日から頑張ろうな』
「うんっ!」

温もりに触れて眠ることは出来ないけど。
同じ想いを抱いて眠ることは出来るから。
消せない後悔は糧にすればいい。
そうやって強くなると想いを寄せながら。
入寮初日は終わりを告げた。


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