第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
耳郎さんは上鳴君を見て堪えきれずに吹き出してるし、周りの数人も堪えようとしながらも口角は上がっていた。
「だめ…ウチ、この上鳴…ツボッフォ!!」
「ふぇ…ふぇ、ふぇいだうェイ」
「……わりィな」
あの時攫われたのは私だけじゃない。
なのに同じ立場でも罪悪感に苛まれるだけの私とは全然違って。
この状況の原因である己の不甲斐なさを悔いるなら、今何をすべきかを爆豪君の姿を見て考えを改める事ができた。
1人じゃないんだから、私にも半分償わせてほしいと。
焦凍君の傍を離れて、一人先に寮へと向かう爆豪君を呼び止めた。
「爆豪君!」
「あ?」
「あの、これ。私にも出させて欲しい」
「てめェはいいんだよ」
「良くない!私の気持ち、爆豪君ならわかるよね?」
「……チッ」
ちょっと卑怯な言い方だったかもしれないけど。
そうでもしないと受け取ってもらえないと思ったから。
切島君に渡していた半分を少し強引に爆豪君に差し出した。
「皆!すまねえ…!!詫びにもなんねえけど…今夜はこの金で焼き肉だ!!」
「うェーイ!」
「買い物とか行けるかな?」
「マジか!」
「ハーーヒーーヒーー」
少し離れたところでいつもの調子を取り戻しつつある皆の声が上がった。
私は焦凍君の傍へと戻る前に切島君に声を掛けてから、近くにいた緑谷君や飯田君にも聞いてもらえるように視線を向けて
「緑谷君、飯田君、切島君。伝えたいことがあるんだけど、いいかな?」
「雪水もいきなりなんだ?」
「3人にはあの時ちゃんと言えなかったから…あの場にいた事を肯定しちゃダメなのはわかるけど、救けようとしてくれた事に対しては攫われた身としてすごく感謝してる。矛盾してるけど…救けにきてくれてありがとう」
「雪水…」
「雪水さん…」
「雪水くん…」
「もう二度と、こんな事に…こんな思いをしないように。強くならなきゃね」
攫われなければ皆が規則を破って先生の信頼を裏切るような事にもならなかったのだ。
もう二度と自分のせいでそんなことはさせないように。
敵になんて脅かされない位強くなろう。
ヒーローを目指す為には勿論だけど。
もう1つの目標として、そう心に誓った。
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