第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
翌日、入寮する日が決まったと睡さんから連絡があった。
教師も雄英の敷地内で生活するらしく、このマンションは退去するからある程度荷物を纏めといてほしいと。
そして入寮前日まで睡さんは帰れそうにないと。
そのことを焦凍君に伝えると、前日までここにいると言ってくれた。
「私はとても助かるけど…入寮の準備大丈夫?」
「半日あれば何とかなるだろ」
私物だけならそうかもしれない。
けど、退去するとなれば一朝一夕では到底難しくて。
入寮前日までの数日間、退去準備に追われることとなった。
申し訳ないと思いつつ焦凍君にも手伝ってもらって。
出来る限り取捨選択しながらも日に日に段ボールは積み重なっていき、何とか入寮する2日前に終わらせる事が出来た。
あっという間に迎えた入寮前日、焦凍君は朝イチで家に帰る事に。
見送りをするついでにある場所に行きたいからと焦凍君と共に数ヶ月ぶりの地元へと足を運んだ。
「どこに行くつもりなんだ?」
「えっとね、お父さんとお母さんのところ」
「…墓参りか」
「そう。ずっと来たいと思ってたんだけど、タイミングが掴めなくて」
入寮を目前にして、学校から離れた場所にあるここに来るのはこの先難しくなるかもしれない。
今がタイミングだと思ったのだ。
「俺も行っていいか?」
「え、でも、入寮の準備は?」
「昼前には帰れば大丈夫だ」
「それまでには終わると思うけど…いいの?」
「ああ。俺が行きてぇんだ」
本当は少しだけ、一人で行くのは心細いと思ってた。
でもこの事を知ってる人はあまりいなくて、その中でも付いてきてもらえる人はもっと少なくて。
だから、一緒に行ってくれる事にとても感謝した。
駅から歩いて、道すがら花屋さんに寄って。
そこからまたもう少し歩いた先の庭園に、両親が眠っているお墓がある。
あの日から半年近く時が経って漸く訪れる事が出来た。
「雪水家之墓」とかかれたお墓を前に。
お花を供えて。
お線香に火を灯し香炉に刺して。
両手を合わせ瞳を閉じて。
「お父さん、お母さん、来るのが遅くなってごめんなさい。私ね、今、あの雄英高校でプロヒーローを目指してるの。お父さんと同じプロヒーローだよ。沢山の人に救けてもらって、勇気をもらった。そして何より…大切な人が傍にいてくれてる。だから、独りじゃないよ。安心してね」
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