第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
俯いたまま顔を上げられずにいると、何かに包み込まれて。
全身を覆いくるむ温もりは無条件に私に安らぎをもたらして。
さっきまでベッドに腰掛けていた焦凍君の腕の中だと考えるまでもなかった。
「ごめんね…」
「紫沫が悪ぃんじゃねぇ…嫌だっただろ」
「嫌?何が?」
「…何を飲み込んだのか、わかってるか?」
そう言われて改めてさっきのがなんだったのかを考えた。
ソレを咥えている時に口内に感じたもの。
ということは…
「焦凍君の…」
「それ以上言うんじゃねぇぞ」
危うく無意識で口にしてしまうところだった。
まだ思考が鈍ったままなのかもしれない。
「気持ち悪ィだろ」
「そんなこと、ない…味はよくわからなかったけど…」
「…味わうもんじゃねぇ」
少しだけその声音が呆れたような感じに聞こえたのは気のせいだろうか。
「とりあえず、口の中濯いでくれ」
「うん?」
もう口の中には何も残ってはいないのだけれど。
そう言われたら断る理由もなくて。
促されるままに洗面所へと向かった。
軽くうがいをして、再び後ろから抱き締められる形で。
ベッドの中で身を寄せ合った。
「紫沫…ありがとな」
「ううん。全然上手くできなくて、ごめんね?」
「そんな事ねェ…充分だ」
「なら、良かった」
その言葉だけでとても満たされる気分だった。
いつも私ばかりが気持ちよくしてもらっていると思っていたから。
焦凍君を気持ちよくしてあげられたのなら嬉しい。
望まれるなら何だってしてあげたいと思うから。
「練習したら、上手になるかな?」
「…必要ねェ」
「でも、焦凍君にもっと良くなってほしい」
「それ以上言うと、今度はココに挿れるぞ」
「え?」
内太ももへと伸ばされた手は這い上がった先の「ココ」を示しながら。
お尻の辺りに何かが擦り当てられて。
さっき程じゃないけど、明らかな存在として主張し始めていた。
「ぁっ…」
「それとも、またコッチでするか?」
顎のラインに添えられた逆の手からはゆっくりと「コッチ」を示して指が伸びてきて。
「おやすみっ」
流石にこの短時間でもう一度は無理だと。
咄嗟にそう口にすれば案外あっさりと引き下がってくれて。
「ああ。おやすみ」
改めて馴染みつつある温もりに抱かれて、瞳を閉じた。
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