第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
『んで、いつなら空いてんだよ』
「えーと、特に予定はないけど…」
『あ゛?暇人かてめェ』
「…警察の人に数日は外に出るなって言われたよね?」
買い物をする為に外に出たことは秘密だけど。
他に誰もいないのだから仕方ないよねと心の中で呟いて。
そんな事に意識がいっていたから隣にいる焦凍君の腕が腰に回る気配に気づかなかった。
『チッ。なら今から話せ』
「え?今から…っ!?」
咄嗟に声を押し殺した自分を褒めてあげたい。
腰を掴まれたのと同時に首筋に充てがわれた柔らかな感触。
それは啄む様にして、一度だけでなく何度も。
『予定ねェっつったろが』
「ちょっ、待っ…」
携帯を添えている方とは逆側に口付けをされていた。
その行為はどんどんエスカレートしているようで。
唇から舌に変わって、首筋から耳元へと這い上がっていく。
「爆豪と、何話してんだ?」
携帯のスピーカーが拾わないくらいの小声で。
耳に吐息がかかる位の至近距離で。
普段よりも少し低めの音が鼓膜に響いた。
逃げようとしても腰に回された腕の力に適う筈もなくて声が漏れそうになるのを耐えるのがやっとだ。
『半年前の事件のこと、さっさと話せや』
「いっ、今は…だめ…っ」
どちらに対してそう言ったのかは自分でもわからない。
相変わらず焦凍君の舌は耳を攻めてくるから。
少しでも気を抜くと声が漏れて爆豪君にバレてしまいそうで気が気じゃなかった。
「俺には言えねぇことなのか?」
またしても耳元で囁かれて。
両耳から聞こえる言葉にどちらを聞けばいいのかわからなくて。
頭の中が混乱しそうだ。
『あ?暇人じゃねェのかよ、クソが』
「っァ…ま!また!今度!」
一瞬、耳を甘噛みされて堪らず出た声に。
それを誤魔化す為、声量が上がっていた。
『いきなりデケェ声出してんじゃねぇ!』
「ご、ごめん…っ」
もうこれ以上耐えられそうになくて。
一刻も早く通話を終わらせたかった。
「紫沫、耳弱ェよな」
囁きかけてくる声にすら私の身体は反応するから。
「また…っ今度、連絡するっから、切る、ね」
『忘れンじゃねえぞ、雪女』
「ゎ、わかった!」
言い終わると同時に通話の終了ボタンを押した。
それに焦凍君も気付いたのか、耳元で態とらしくリップ音を立てられたのを最後に行為も止んでいた。
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