第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
あれから睡さんは会議があるとかですぐに学校へ戻ってしまった。
やっぱり数日の間はまた帰ってこれそうにないみたいで。
私の言葉が足りずに焦凍君を無断で泊めた形になっていたけど。
改めて聞くとなんの反対もなく寧ろ誰かといるならその方がいいと快く了承してもらえた。
数日泊まることになった焦凍君は着替えを取りに一度実家に帰っていき、その間に私は部屋の掃除をして空っぽになっている冷蔵庫の為に買い出しに出かけた。
睡さんの家にお世話になってから料理をする機会が増えて、簡単なもので良かったら夕飯を作ると言ったら二つ返事で食べたいと言われたのだ。
すぐに戻ると言っていたからあまりゆっくりともしていられない。
家の鍵は私しか持っていないから焦凍君が帰って来る前に終わらせようと夕方前にはすべての用事を済ませ。
今夜はサラダとオムライスとコンソメスープに献立が決まったところでオートロックのチャイムが鳴った。
「今開けるね」
『おお』
程なくして家のチャイムが鳴り、玄関に向かっている最中。
スマホが着信を知らせたので画面を見るとそれは通話の着信で。
そこに表示されている名前は今まで一度もかかってきたことのない人物からだった。
一瞬驚きで固まってしまったけど、その人物の印象からかすぐに出なくてはという強迫観念みたいなものに追われて、即座に通話ボタンを押していた。
「もしもし…」
『出んのが遅え!』
「ご、ごめん、爆豪君」
そう答えながら家の鍵を開けるとすぐに私が通話しているのがわかったのか、何も言わず焦凍君は家の中へと入ってきて。
少し不思議そうにしながらも口パクで「ただいま」と言ってくれたから同じく「おかえり」と返した。
『おい、時間寄越せ』
「え?」
通話をしながら先にリビングへと向かいソファに座り。
遅れてやってきた焦凍君は着替えが入っているのであろう大きな荷物を降ろしてから隣に座った。
『てめェに聞きてえことがあるっつったろが!』
「そ、そういえばそんなこと言ってたね…」
音漏れする程の声量に相手が誰なのか焦凍君もわかったようで。
何だかこっちをジッと見られているようだけど、今の私は爆豪君に返事をすることに必死でその気配を気にかける余裕はなかった。
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