第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
唐突に聞こえてきた声で焦凍君の動きが止まった。
同じく私もすぐに反応が出来なくて、訪れる一瞬の沈黙。
しかし再び聞こえてきた声に漸く今の状況を理解して、途端に焦りが私を襲う。
「あの声は…睡さん!?ちょ、焦凍君、放して?!」
「…寝てるフリしちまえばいいだろ」
何故か少し不機嫌そうな声音で言われたけど家主の登場に狸寝入りするわけにもいかなくて、何とかして放してもらおうともがいてるのに胸元にあった手が再びお腹に回され抜け出せない。
「紫沫ちゃーん!……あら?もしかして、お邪魔しちゃったかしら!?」
「睡さん!?あの、これは違くて!」
なかなか私が出てこないからか、睡さんが部屋まで来ていて焦凍君と同じベッドの中にいる姿を見られてしまった。
流石にこうなると寝たフリをするのは無理だと思ったのか腕の力が緩んだ隙にベッドから飛び降りる。
「お、お帰りなさい!学校大丈夫なんですか?」
「ええ。紫沫ちゃんの様子を見に行くって事で何とか帰ってきたわ。轟くんと一緒にいるとは聞いてたけど…まさか泊まってたなんてね。しかも、なんだか仲良くしてたみたいね?」
「いや、あの、これは…その…」
少し含みのあるような言い振りになんと返していいかわからず口籠ってしまう。
焦りと恥ずかしさで顔をあげられなくなっていると、焦凍君もベッドから出たのかすぐ傍で声が聞こえてきた。
「ミッドナイト、お邪魔してます」
「こんにちは、轟くん。紫沫ちゃんの傍にいてくれてありがとう」
「いえ、俺がそうしたかったんで」
「そう…ならもう少しお願いできるかしら?私はまたすぐ学校に戻らなくちゃいけないの」
「え?もう行っちゃうんですか?」
「ええ、今ちょっとゴタゴタしててね。あまりゆっくりはしてられないわ。でも…本当に無事でよかった」
そう言って私のことを抱き締めた睡さんの腕の中はとても暖かくて。
それは焦凍君とはまた違う。
例えるならお母さんに感じていた様な安心感。
「心配、おかけしました…」
「紫沫ちゃん、おかえり」
「睡さん…ただいま」
その言葉に改めて、ここは私にとってかけがえのない帰る場所なのだと。
そしてそこに戻ってくることが出来たのだと実感したのだった。
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