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【ヒロアカ】雪恋【轟焦凍】

第2章 中学生編


轟SIDE


嫌な夢を見た。
お母さんに煮え湯を浴びせられた時の夢だった。
飛び起きるようにして目が覚めると寝汗が酷く、とうの昔に痛みは消えている筈の左の火傷痕が熱を持ってジリジリと疼痛を伴っている気がした。
取り敢えず汗だけでもなんとかしようとシャワーを浴びる事にして。
部屋に戻って時計に目をやると朝の走り込みにはまだ少し早い時間だったが、寝覚めの悪さを払拭しようとそのまま外へ向かった。
いつも休憩している公園まで辿り着くと、少し呼吸を整えた後、ベンチに座り込んだ。

(久々にあの時の夢見たな…)

折角走って振り切ろうとしていたのに、結局こうして思い返してしまっている。
いや、一度として忘れたことなどないのだから、何をしたって変わるはずがない。
それでも、あんな風に夢で見てしまうとあまり冷静ではいられなくなる時もある。
だとして、決して忘れてはならない過去である事に変わりはない。
この事は一生背負って行くと決めたのだから。

「…轟君…?」

どこまででも沈んでいきそうな俺の思考を遮ったのはここにいる筈のない人の声。
ゆっくりと顔を上げればやっぱりその人はそこにいて、まさか幻でも見ているのではないかと思った。

「…雪水?」
「やっぱりそうだ。…あれ?轟君泣いてるの?」

そう言って近付いてきた雪水は俺の目線に合わせるようにしゃがみ込むと、恐る恐るといった風に手を差し伸べてきた。
触れてきたその手はとても暖かかった。

「どうしたの?どこか痛いの?」
「……紫沫…」

やっぱりあの子はお前だったんだな。
確信なんてなかった筈なのに、その瞬間俺はなんの疑いもなくそう思った。

「痛いの痛いのとんでけ、なんてね」

そう言ってまたあのキラキラしたのが舞い落ちてくる。

「綺麗だ…」

心からそう思った。
記憶の中の景色はもうだいぶ薄れてしまっていたから、またこうして見ることができて良かった。
暫くしてそれは消えてしまったが、俺の中にはその景色が新たな記憶として残っている。
俺に触れていた雪水の手が、ゆっくりと離れていくのが何故か酷く名残惜しかった。
しゃがんでいた雪水は俺の隣に座ってくると、静かに言葉を紡いだ。

「ねぇ、昔の私は轟君のこと、焦凍君って呼んでたよね」
「…思い出したのか?」
「うん。思い出したよ、全部」



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