第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
爆豪君を連れ去ろうとする敵の攻撃を交わすサポートをしながら隙を伺うけど、なかなかそんなものは見つからない。
サポートアイテムを持っていないから無闇に"個性"も使えなくて悪戦苦闘していたその時。
自分のものではない冷気を感じた。
それは私の大好きな心地いい冷気で、咄嗟に視線を巡らせてしまう。
「焦凍、君…?」
高く空へ伸びるようにして現れた氷結が私の視界に飛び込んできた。
こんな状況なのに、私の意識は奪われて目が釘付けになる。
「雪女!!」
爆豪君に腕を掴まれたかと思った。
「行かせない」
けれど今、私の腕を掴んでいるのはあの業と名乗った敵。
氷結を足場に上空を横切った何かに向かって爆豪君は跳び出しあっという間に姿を消した。
「こんな形では行かせないよ」
多分あれは緑谷君達だ。
きっと私達を救けようとここまで来ていたのだろう。
敵連合の狙いは爆豪君だけだった。
忘れていたわけではないけど、攻撃を仕掛けてきた中にいなかったから頭から存在が抜けていたのだ。
「っ離して!」
「逃がさない。この際だから連れて行くことに…」
最後まで言い終わらない内に何かの"個性"がかかったのか、磁石の様に反発して運良く離れることができた。
「っんだよ、これ!」
「その子はこちら側にいない方がいいんだよ、業」
業は黒いモヤの前にいる敵の方へと引きよせられている様だ。
私にかかっていた"個性"は既に解かれている。
今なら逃げられるそう思った時、何かが私の身体に巻きついた。
それはまるで相澤先生の捕縛布の様な。
「その身体じゃあんた…ダメだ…俺まだ——」
「弔、君は戦い続けろ」
「邪魔すんなーー」
「業、君も頼んだよ」
敵が黒いモヤの中に消えて行くのと同時に私の身体は何かに引っ張られて気がつくと誰かの腕の中だった。
その腕の中はとても安心できて酷く懐かしい気がする。
「紫沫っ」
頭上から聞こえてきた声に今自分を抱きしめているのが誰か、はっきりとわかった。
一時でも、もう会えないと思った。
こんなタイミングで、会えるなんて思ってなかった。
「焦凍君…っ」
ずっと、会いたかった。
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