第9章 原作編《神野事件》
轟SIDE
「ど…どうなっているんだ!?」
「いっててて…」
爆風に巻き込まれ一度視界が奪われてしまい緑谷は俺の肩から落ちるも、切島と八百万が塀から顔を出し状況確認をしていた。
「Mt.レディにギャングオルカ…No.4のベストジーニストまで…!」
「虎さんもいますわ…!」
「ヒーローは俺たちなどよりもずっと早く動いていたんだ…!」
「すんげえ…」
「さぁすぐに去ろう。俺たちにもうすべき事はない!!」
プロヒーローが現れ廃倉庫に奇襲をかけたらしい。
聞こえてきた会話からここではなくもう一つアジトかあるようだ。
紫沫と爆豪は恐らくそちらにいるのだろう。
それならばここにいる意味はないと立ち去るつもりで歩みを進めた時だった。
「すまない虎。前々から良い"個性"だと——…丁度良いから…貰うことにしたんだ」
「!?」
「止まれ動くな」
少なくとも今し方現れたプロヒーローではない人物の声が耳に響いた。
「こんな身体になってからストックも随分と減ってしまってね…」
「敵には何もさせるな」
プロヒーローは突然現れた第三者を敵とみなし、捉えたのだろう。
しかしソイツは至って冷静に言葉を続けた。
「せっかく弔が自身で考え自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」
振り向くことすら出来ない。
一瞬の出来事ーー何が起きたのか。
一瞬、一秒にも満たない。
それでもその男の気迫は俺らに死を錯覚させた。
(何だ、あいつ。何が起きた!?)
正体もわからない何かが一瞬で全てをかき消した。
恐怖で身体が動かない。
ただひたすらに耐えていたその時。
「ゲッホ!!くっせぇぇ…んっじゃこりゃあ!!」
「悪いね、爆豪くん」
「あ!!?」
(爆豪!!)
この場にいない筈のクラスメイトの声が耳に届いた。
それに続くようにして新たに聞こえてきた声は2つ。
「ヴェッ!…気色悪…っ」
「げほっげほっ…」
「君達には一度会いたいと思っていたよ」
先に聞こえたのは忘れもしない。
攫っていった敵だ。
そしてその後に僅かに耳を掠めた声。
今、塀の壁一枚を隔てた向こう側に。
この数日間、求め続けた存在が。
やっと。
俺の手が届く距離にいる。
(紫沫…っ)
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