第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
「綺麗な身体…傷跡一つない。この痕もどうせ消えて無くなる」
何故こんな状況になっているのかわからない。
けれど怯えてばかりでは駄目だ。
ヒーロー科に残って頑張るって決めたんだから。
自分の身くらい自分で守れなくてどうする。
学校で身に付けた力があるじゃないか。
そう思った私は"個性"を発動させた。
「うわっ」
サポートアイテムはないし、合宿の疲れから"個性"をあまり使えない。
けど牽制くらいにはなったみたいで、敵は私から手を放し距離をとった。
「"個性"使えるようになってたんだね。これは誤算だけど…」
何事もなかったかの様に背を向け扉の方へと歩いて行って、取手に手をかけこちらに振り向く。
「どうせ、ここからは出られない」
そう言い残して扉の向こうへと姿を消した。
独り取り残された部屋はとても静かで。
静か過ぎて耳鳴りがする。
さっき何とかしなくてはと思ったばかりなのに、突き付けられた言葉に嫌でも真実味を感じてしまい心が挫けそうになった。
敵が出て行った扉へと駆け寄りドアノブを何回も回すけど案の定鍵がかけられていて開かない。
もう一度部屋全体を見回すけど、窓一つない空間。
あるのは私が寝かされていたベッドと間接照明程度の光源しかないランプだけだ。
私の"個性"では壁を破壊するなんて出来ない。
ここから出られる術を見出せなかった。
「嘘…でしょ」
皆と一緒にいたことが一気に遠い昔のことの様に感じてしまう。
ついさっきまで一緒だった筈なんだ。
日中は地獄のような訓練を頑張って、日暮れには力を合わせてご飯を作って…
焦凍君と一緒に肉じゃがを作って…
「焦凍、くん……っ」
ここから出られないなんて信じたくない。
皆に会えないなんて…焦凍君に会えないなんて考えたくない。
もう、独りになんてなりたくない。
否定をし続けているのに、よくないことばかりが浮かんできてしまう。
それからどれ程の時間が経ったのか…
時計もなければ、外の景色を見れない部屋は時間の感覚を狂わせるには充分だった。
外界と遮断された空間に私の思考と気力は奪われていき、ベットの上で蹲る事しか出来なくて。
無情に過ぎて行く時間と共に虚無感だけが膨れ上がっていった。
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