第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
目を覚ますと見覚えのない場所にいた。
「ここ…どこ…?」
頭が朦朧としていて上手く考えが纏まらない。
眠っていたようだけど、その前に何をしていたのか…
ぼんやりとした思考の中なんとか考えを巡らせていると徐々に意識がはっきりとしてくる。
「敵は!?」
合宿の最中で補習を受ける筈が敵が襲ってきて、それをブラド先生が捉えたところを思い出す。
しかしそこで何者かに意識を奪われその後のことがわからない。
今の状況を把握する為に体を起こして辺りを見回してみるけれど手掛かりになりそうなものはなく、もう一度合宿所でのことを思い返してみる。
「そう言えば…」
意識を失う直前に誰かの声を聞いた気がする。
聞き慣れないけれど、聞き覚えのある声
両親を襲った…あの人影の声と同じだった。
そこまで考えて嫌な予感が一気に私を襲う。
「まさか…っ」
その時扉が開く音が聞こえ、咄嗟にそちらへと視線を向けていた。
誰かがこちらに近付いてくる。
正体を知りたいのに知りたくない。
防衛本能からか、扉から離れるように後ずさったけれどすぐに背中が壁とぶつかりそれ以上距離を置くことが出来なくなった。
「ああ、起きたみたいだね」
「…っ!!」
「気分はどう?雪水紫沫」
やはり気のせいなんかじゃなかった。
あの時に顔を見たわけではないし、今もマスクをしているから目元しか見えない。
それでも、その声と雰囲気から確信した。
私の意識を奪ったのは、両親を襲ったあの人影。
「声も出せない?」
そう言われた次の瞬間、着ていたTシャツが刃物か何かで襟元から引き裂かれていた。
何をされたのわからない程の速さに反応が追いつかない。
敵は壁に左手を付き見下ろしてくると、右手の人差し指で胸元にある鬱血痕に指し触れた。
「…コレ…キスマークだよね?高校生って結構マセてるんだね」
人差し指がゆっくり下へと一直線を描きながら肌の上を滑って行く。
言いようのない恐怖に襲われた私は無意識に呼んでしまっていた。
「しょう、と…くんっ」
「ショウトクン?何処かでーー…ああ、トドロキショウト。これを付けたのはあの子?ねェ…もし彼以外の痕があったらどう思うかな?」
言葉の意味を理解する前に、もう一方の胸に噛み付かれキスマークというには毒々しい鬱血痕を刻み付けられていた。
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