第2章 中学生編
紫沫SIDE
「いや、俺も確信がある訳じゃねぇ…雪水はそんな記憶ねぇんだろ?」
「うーん…覚えて、ないかな…」
「俺が覚えてるのは名前と"個性"だけだ…顔はあんま思い出せねぇ」
何だかとても申し訳ない気持ちになってきた…
彼の中には少なくともその事実があったと言う記憶が残っているのに、もしそれが私だとして、私の中にはそれが何も残っていないのだ。
「…そう言えば、最近見た夢でちっちゃい男の子が出てきた気がする」
「夢?」
「うん…あんまり覚えてないんだけど…もしかしたらあれってちっちゃい時の記憶だったのかな?」
思い出そうとしてみると、起きた時には殆ど忘れていたのだから今更思い出せるはずもなくて…
結局、彼の言う「紫沫」が本当に私だったのかはわからなかった。
「忘れたもんいつまで考えても仕様がねぇ。あんまり気にするな」
「…うん」
「そう言えば、何でこんなとこにいたんだ?」
「お母さんに買い物頼まれて…って、アイス忘れてた!」
お使いのついでに買ったアイスの存在をすっかり忘れていて、慌てて袋から出してみるも見事にそれは溶けていた。
「…悪ぃ。アイスダメにしちまったみてぇだな。…凍らせたら元に戻るか?」
確かに、彼の氷結なら再び復活するかもしれない。
でも、原型が無くなるほど溶けてしまってはもう一度凍らせたところで食べられそうにはない。
「ううん。これはもう諦めるよ。そろそろ日も暮れそうだから、そのまま帰る」
「そうか。俺もそろそろ戻らねぇと」
「うん。夏休み会えないと思ってたから、偶然でも轟君に会えて嬉しかった」
「ああ、俺も雪水に会えて良かった」
「じゃぁ、また。今度こそ2学期かな?」
「そうだな。帰り気をつけろよ」
「うん、またね!」
そう言って、私達はお互いの家へと帰路に着いた。
歩きながら別れ際の会話が頭をよぎる。
(あれ?私なんて言った?)
凄く恥ずかしいことを言っていたことに気づいて、今更ながら顔が赤くなるのを感じる。
何故あの時あんなに自然と言えたのか、普段の私なら絶対に言えない。
でも、あれは紛れも無い本心であったのは確かだ。
(そう言えば、俯いていた時の何だかいつもと違う雰囲気は無くなっていたな。私の勘違いだったのかな?)
なんて思考を巡らせながら、私は家を目指した。
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