第2章 中学生編
轟SIDE
夏休みに入り、強化特訓だとかでクソ親父が直接稽古をつける日が増えた。
容赦ないそれは、日に日に俺の体に痣を増やしていく。
こんなもの今に始まった事ではない為特に気になりはしないが、クソ親父と共にいることでストレスがどんどん溜まっていた。
気分転換に普段とは違うコースを走り、目に入った公園で休憩がてらベンチに座って目を閉じ俯いていると。
誰かが近づいて来る気配がして顔を上げれば。
「雪水…?」
そこには席が隣のクラスメイトの姿があった。
「轟君、久しぶり…?」
何故かその顔を見たのは随分前のように感じる。
「え、その痣どうしたの!?」
そう言って駆け寄ってきた雪水はとても慌てている様だった。
「大したことじゃねぇ、気にするな」
「大した事あるよ!どうしたらこんな痣だらけになるの!?」
「…ただの稽古だ」
「…一体どんな稽古してるの、轟君…」
慌てていたかと思えば泣きそうな顔でこちらを見て来る雪水に、かつて幼い頃、数回だけ会った子供の顔がダブって見えた。
幼い頃は辛い稽古に耐えられず、逃げるようにして駆け込んだ公園で出会ったその子は、当時の俺にとっては母の次に安らぎをくれる存在だった。
下の名前とどんな"個性"だったのかくらいしか覚えていないが、それでも記憶の中に残っているそれは忘れられない思い出のひとつだ。
「勝手な事だとは思うけど、少しじっとしててね?」
何をするつもりなのかと黙って見ていると辺りにキラキラしたものが舞い始めて。
その光景に驚愕した。
(この"個性"は…あいつと同じ…)
先程ダブって見えたあの子の"個性"と全く同じもの。
授業中見かけた時に似ているとは思っていたが、よく見るとそれはただの雪でこんな風にキラキラしたものではなかった。
似た"個性"なだけで別物なのだろうと思っていたのだ。
だから、別人なのだと…
「紫沫…」
思わず声に出して名前を呼んでいた。
「…え?」
「悪ぃ、人違いだ…」
ここ最近抱え続けたストレスのせいか。
頭がうまく働いていなかったらしい。
これが同じ"個性"とは限らない。
雪水はあの子ではない。
「え、あの、それ、私の名前…」
「…は?」
そういえば、雪水の下の名前を知らない。
たまたま知ったのは苗字だけで、それだけで充分だった為に一度も聞いたことがなかった。
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