第8章 原作編《林間合宿》
紫沫SIDE
脱衣所を出て、洸汰君の行方を捜していると話し声が聞こえてきた。
そちらに向かうとピクシーボブが扉に入っていく姿が見えて、きっとそこに洸汰君もいる筈だと近付いた時。
「マンダレイのいとこ…洸汰の両親ね。ヒーローだったけど殉職しちゃったんだよ」
聞こえてきた言葉に足が止まってしまう。
「二年前…敵から市民を守ってね。ヒーローとしてはこれ以上にない程に立派な最期だし、名誉ある死だった。でも物心ついたばかりの子どもにはそんなことわからない。親が世界の全てだもんね。「自分(ぼく)を置いて行ってしまった」のに世間はそれを良い事・素晴らしい事と褒めたたえ続けたのさ…」
立ち聞きなんていけないと思いながらも声を掛けることも出来ず、その話に耳を傾けていた。
「私らのことも良く思ってないみたい…けれど他に身寄りもないから従ってる…って感じ。洸汰にとってヒーローは理解できない気持ち悪い人種なんだよ」
私と似たような境遇でも環境は全然違う。
「それより君…服着てきな?」
その直後、腰にタオル一枚を巻いただけの緑谷君が扉から出てきた。
「っ!?」
「あれ?雪水さん?」
「あの、服っ」
「わぁ!ごめん!」
「何騒いでんの?」
こちらに気付いたピクシーボブとマンダレイの姿が見えて、そちらに視線を向けてなるべく緑谷君を視界に入れないようにする。
「あっ、洸汰君の様子が気になって…」
「心配してくれてありがとね。気を失ってるだけだから大丈夫」
「良かった…もし何処か打ったりしてたら"治癒"しようかと思ってたんですけど、必要なかったですね」
「あなたもしかして、雪水さん?」
「はい」
「そう…あなたも大変だったわね」
「…ご存知なんですね」
「雪水さん?」
「何でもないよ。それより早く服着てほしいな」
「あっ、じゃ、じゃあ、僕は先に失礼するね!」
そういって緑谷君は大浴場の方へと駆けていく。
隠しているつもりはないけれど、この時は私の両親のことは言うタイミングじゃないと思って誤魔化した。
「あなたのお父さんとは知り合いでね。お母さんとも面識があったんだよ」
「そうだったんですか…でも、洸汰君もご両親を亡くしていたとは…」
「ヒーローの世界じゃ有り得ない話じゃないからね」
「…そうですね」
それ以上は特に話すことはしなかった。
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