第8章 原作編《林間合宿》
紫沫SIDE
荷物を部屋に置いた後に食堂へと向かうと既にテーブルの上にはバラエティに富んだ料理が並べられていた。
「いただきます!」
「へえ、女子部屋は普通の広さなんだな。じゃあ」
「男子の大部屋見たい!ねえねえ見に行ってもいい、後で!」
「おー来い来い」
「魚も肉も野菜も…ぜいたくだぜえ!!」
「美味しい!!米美味しい!!」
「五臓六腑に染み渡る!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!!いつまでも噛んでいたい!土鍋…!?」
「土鍋ですか!?」
「うん。つーか、腹減りすぎて妙なテンションになってんね」
「まー色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな」
会話を弾ませながらも、漸くありつけたご飯に皆箸を持つ手が止まらない。
ふと隣に座る焦凍君が口に運ぼうとしていたある食べ物が目に入る。
「あれ?焼売なんてあった?」
「ああ。あっちの皿に…これが最後みてぇだな」
焦凍君が指差したお皿の上は既に空っぽだった。
「まだ口つけてねェし、これ食うか?ほら」
そう言って焦凍君は焼売を私の目の前に差し出す。
その光景に見覚えがあって、それがどう言う意図なのかを理解する。
所謂あーんというやつだ。
「…自分で食べれるよ?」
「気にすんな。ついでだ」
確かにそれはもう焦凍君のお箸の中にあったものだけれど。
少し考えて、折角最後の一つを分けてくれるというのに断るのも気が引けた私は意を決する。
周りの皆は自分のご飯に集中しているみたいだし、多分誰も見てない。
そう言い聞かせて焼売を一口で咥える。
「美味いか?」
口の中が焼売でいっぱいだったので、無言で頷いた。
「良かったな」
何だか焦凍君が満足そうな顔をしている気がする。
目の前に座っている八百万さんがとてもニコニコしながらこちらを見ていた。
「お二人は本当に仲がよろしいんですのね?」
さっきの行為をバッチリ見られていたらしい。
何か言おうにも口の中は未だに焼売に占領されている。
「普通だろ」
焦凍君はさして気にした様子もなく新しいおかずを口に運んでいた。
「そういうものなんですの?私お付き合いという関係はあまり存じ上げませんので…」
私も知っている訳じゃないけど、焦凍君がする事は少しずれているのではと思いながらも私の口はひたすらもぐもぐとだけ動いていた。
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