第7章 原作編《夏休み》
紫沫SIDE
決勝戦は飯田君がホイッスルを持つことになった。
「それでは!50m自由形の決勝を始める!」
「行ったれ爆豪!」
「相手、殺すなよ!」
「轟も負けんな!」
「デクくんガンバレ〜!」
「皆さん、ファイト!」
「焦凍君頑張れ!」
この時には既にさっきの不意打ちの口付けの事など忘れて応援をしていた。
クラス全員がプールサイドから声援を送る中、飯田君が号令をかける。
「位置について!よ〜い!」
ホイッスルが鳴り一斉に飛び出したその時、何が起きたのか三人共プールの中に落ちていってしまった。
「な、なんだ!?」
「"個性"が消えた!?」
「17時。プールの使用時間はたった今、終わった。早く家に帰れ」
その声の主は我らが担任の相澤先生。
"個性"を消して決勝戦を止めた張本人だ。
「そんな、先生」
「せっかくいいとこなのに!」
「なんか言ったか」
「「「何でもありません!」」」
勢いのままくってかかるも先生に敵うわけもなく、優勝者は決まらないままその日のプールはお開きとなった。
水着から着替えて更衣室を出たところに焦凍君がいて、一緒に帰ろうと言われる。
普段から一緒に下校していたし、試験の日に私達の関係がクラス公認となったのもあって周りに囃し立てられるようにして焦凍君と共に駅まで向かい、ホームで電車を待っている時にあるポスターが目に入った。
「花火大会かぁ…去年は受験もあったし行ってなかったな」
「行きてぇのか?」
「うーん…でもあんまり外出したらダメって言われてるよね」
「それは長期でだろ。ミッドナイトに聞いてみりゃいい」
「でも睡さんは忙しいだろうから、わざわざ一人で行くのもなぁ」
「俺とじゃねぇのか?」
その言葉に私は勘違いをしていたことに気付く。
てっきり睡さんを誘ってみればという意味だと思っていたらそうじゃなく、行ってもいいかの確認をしてみたらという意味だったらしい。
そして、当然のように二人で行く前提だったのか。
焦凍君はあまり興味が無いと思っていたからその発想がなかった。
「いいの?」
「ああ。他に行きてぇ奴がいるなら」
「焦凍君と行きたい!」
思わず遮ってまでそう言ってしまっていた。
それ程に二人で花火大会に行けるということが私にとっては嬉しいことだったのだ。
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