第6章 原作編《期末試験》
紫沫SIDE
暫くして、誰かが近づいて来るのがわかりそちらを向くと、予想していた人とは違うシルエットに気付いた。
「あれ?相澤先生じゃ…」
「相澤先生の指示で俺になった」
「轟君!?」
聞こえてきた声とハッキリと見えた姿の正体に驚きはしたけど、どこか嬉しく思っている自分がいた。
「ここすげぇ寒いな。これも"個性"の影響か」
「あ、うん。そうみたい。周りの温度を奪っちゃうらしくて、雪も積もってるから余計にね」
「紫沫は大丈夫なのか?」
「そういえば…前みたいにあまり寒さは感じな…!?」
動けない私を抱える為に伸ばされた手が身体に触れた瞬間、目の前で起きた事にぎょっとした。
轟君が咄嗟に引いた手は凍ってしまっていたのだ。
「…どう言う事だ?」
「どうして…私は何もしてないのに…」
お互いに状況が理解できないまま、轟君が凍った手を溶かしているのが見えた。
「溶かしちまえば平気だ。こうなったのは初めてか?」
「うん…どうしたらいいんだろ…」
「取り敢えず、触れた瞬間すげぇ冷たかったから暖めるぞ」
「お願いします…」
そう言って、轟君は左の"個性"を発動させた状態で私に触れると、さっきのような事にはならなかった。
その事に少し安堵していると、暖められているお陰で体温が上がっていくのを感じる。
「"個性"の反動かもしれねぇな…前みたいに気を失ったりはねぇが、触れた物を凍らしちまう程の冷気を纏ってる状態になってる」
「コスチュームはヒーターが内蔵されてるから何とも無かったのかな…私自身は平気だけど、もし不用意に他人に触れちゃうと大変な事になるね…」
折角"個性"を制御できたと言うのに、新たな問題を発見してしまい少し気分が落ち込む。
「また難しく考えてるだろ。気をつけりゃあいい事だ。凍ったが、すぐに溶かしちまえば問題ねぇ」
「うん…」
私はつくづく轟君のお世話になってばかりだ。
しかし、この試験を通じて新たに芽生えた想いを現実のものとする為にはそんな事では駄目だ。
皆より大分出遅れてしまっているけど、もっとちゃんと自分の"個性"と向き合わなくては。
そう思っていると、体温が通常まで戻っていたらしく、轟君に横抱きで抱えられているのに気付いた。
.